連載エッセイ48
民意、民主主義とは何だろう
代受苦…瀬戸内寂聴さんの言葉から
横路 由美子

 東北の被災地を廻っていた瀬戸内寂聴さんが「青空説法」の場で身内を津波で亡くした女の人の悲しみに答えて「代受苦」という言葉を言われていたのをテレビで見た。「今いる私たちすべての人たち、すべての命の代わりになって、苦しみを受けて下さったのです。」
 3・11以降、自分自身が被災したわけでもないのに、日本中の人々が無力感に襲われ鬱のような気持ちが続いた。喜寿を迎えられた皇后陛下も、一時絶望感にとらわれたと述べられた。
 いつも力強いメッセージで励まして下さる樋口恵子さんも「高齢社会をよくする女性の会」の全国大会の冒頭で同じことをおっしゃった。樋口さんは、「3月以来鬱々としていたそんなある日、被災地のお見舞いにいらしたニュースの中で、皇后陛下が年配の女性の手を握って『助かって下さって有り難うございます』と言われた言葉に、命そのものをそのままを受け入れ、助かった方の心のひだに寄り添う思いの深さに感動し共感した」と話された。
 多くの人たちが「なぜ私が助かって、孫が…」「あの時おばあちゃんの手を放した…」「妻が近所の年配の人たちを乗せるために車から降りて…」と数え切れないたくさんの思い、後悔、自責。両親を亡くした子どもが240人、片親を亡くした子ども1327人、高齢者の死者も多かった。それぞれの家庭でどんなにたくさんの悲劇、悲しみが在ることだろう。

 横路後援会の秋の集いもお蔭様で盛会裏に終ったある日、出席者の一人であった福岡高校の後輩の高橋さんに誘われて月寒カトリック教会での「脱原発、いのちの闘争」(西山正啓監督)を観る会に行った。
 その帰り道、高橋さんが「秋の集いは、ほんとにアットホームで温かく楽しかったよ。それに抽選で僕の当たった南部せんべいが壊れないように新聞紙で包んであって、その新聞が「岩手日報」だったので、家族みんなで広げて読んだんです」と言って下さってうれしかった。秋の集いの会費の一部で、今回は東北の品物を購入、ささやかながら復興支援の思いを表した。何もできなくとも、できる事を少しでも一人ひとりがやっていくことが肝要だ。

 11月末、私も属している「ライラックの会」で開いた東北支援の報告会で、福島県から札幌に自主避難してきたSさんの訴えの切実さに胸が詰まった。子ども連れの若い所帯がやっとの思いで自主避難してきている。
 「自主避難」すると村で言ったら、「逃げ足が速いね」とか「そんなに危険な所と風評が広まる」とか「外聞が悪い」とかものすごい圧力があったという。「見えない放射能」であるだけに、残る者も避難する者も苦しい決断であり戦いだ。

 地震、津波の被害は人知を超えるものがあって、世界中の貧しい国々からも支援を頂いた。しかし原発は、人災であり、地球に住む人々だけでなくすべての命在るもの、環境に対する加害者となってしまった。農作物も海産物も大きな打撃を受けている。福島原発の収束は簡単にいく事ではない。今も多くの働く人々が、被曝の危険にさらされながら、文字どおり懸命に戦っている。
 この事故をどう解決し、収束に向かおうとするのか、世界中が注目していると言っていい。どうかこれ以上罪を重ねないで欲しい。原発を輸出することはやめて再生可能なエネルギー開発で日本はリードを取って欲しいと願っている。憲法9条が、武器なき世界を目指すように。それが、3・11以後の民意なのではないだろうか。

 今から15年ほど前、障がいを持つ人たちと一緒に「福祉」をテーマにデンマークに行ったことがある。列車の線路の向こうに風車が何基か見えていたのを思い出す。NHKで11月、デンマークのロラン島が、すべてのエネルギーを風力発電でまかない、余った電力はコペンハーゲン等の都市に売っているという特集番組を見た。
 そのロラン島の話で感心したのは、40年近く前のオイルショックの後、これからのエネルギーとして原子力の導入が政府の方針として示された。ロラン島がその候補地にされた時、島民は「考えさせて欲しい」と3年間の猶予期間を貰った。当事、政府が原発推進のために設置した原子力委員会は、様々な圧力を受けながらも、公平に原発について住民が学べるように賛否両論資料を揃え討論と勉強の機会を作った。その結果2年後に、島民投票で原発は採用しないという結論に達したという。

 そう言えば15年前の私の旅の感想は、デンマークでは福祉政策にしても高齢者問題にしても、驚くほど当然の事として当事者参加の仕組みができていることだった。
 政治と国民の距離、民主主義の熟成度が日本とこうも違うのはなぜだろう、みんなが自分に問わなければならない問題だ。いろいろ困難で苦労の多い問題を子孫に残さないように、できる限り民意を高めて確実に賢明な選択をしていきたいものだ。






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