連載エッセイ40
参政権の重み
横路 由美子

 「あのー、横路さんの奥さんでしょう?」と突然、隣の席の男の人から声を掛けられた。この秋、札幌西区のそば屋に、事務所のスタッフの人たちと昼食に寄った時のことである。
 「佐藤訴訟を私も支援していたので、一緒に小樽や札幌の裁判所や集会に出ましたよ。奥さん、あの頃子どもさん達小さくて、ご飯やおやつのことを心配したり、大変だなと思っていました。」

 佐藤訴訟、今から37年前になる。小樽の川柳作家、佐藤冬児さんが札幌地方裁判所小樽支部に提訴した「在宅投票制度復活」のための訴訟である。以前、不正に悪用された事を理由に(障がい者が不正をしたわけでもないのに)、1952年国会が在宅投票制度を廃止し、それ以降投票所に行けない人たちから投票する権利を奪ったのは、憲法違反であるとう主張であった。
 折しも69年にはアポロ一号を月に着陸させ、「人類が月旅行も夢でない時代に入ったというのに」と、国会に出て間もない横路に佐藤さんからお手紙をいただき、早速、山中弁護士を主任とする裁判闘争と国会質問の両面作戦に取り組んだのである。

       投票所月より遠く
              寝たっきり
       入場券千切る頭上の
              ヘリコプター
       裁判になり在宅に
              灯が当たり
                         冬児

 19才の時、雪下ろし中に脊髄を痛めて寝たきりになった佐藤さん。歩ければ10分もかからない小学校の投票所、ヘリコプターは棄権防止を呼びかけるが、行くすべのない自分は入場券を小さく千切るだけ。

 3年半かかって一審は全面勝訴。控訴された札幌高裁判決は形式敗訴で実質勝訴。
 佐藤さんは「在宅に玉虫色の法衣かな」「在宅の道理に国側面子だけ」と詠んだ。但し最高裁では「国会議員は立法に関して責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的責任は負わない」として憲法判断に踏み込まなかった。
 国会の立法行為や立法の不作為を理由に、国家賠償を求めることはできないとされたのである。提訴から実に14年、最高裁判決の直前に佐藤さんは亡くなられた。

 在宅投票制度は、提訴をきっかけに一部復活されたが、その後もずっと、人工呼吸器をつけた人、難病患者、精神的に投票所の中で書けない人、ケガや産褥(さんじょく)にある人など様々な人たちが投票権の拡大を求めて闘ってきた。
 今現在、在宅投票制度(郵便投票制度)は身体障害者手帳あるいは戦傷病手帳を持っている人の一部、要介護5の人と限られ、更にその内、代理記載人を指定できる人も要件が厳しく手続きも煩雑である。諸外国では巡回制度やもっと簡単な仕組みもあるので、基本的人権の見地に立って親身に整えていく必要があろう。参政権の平等は民主主義の根幹で、女性や少数民族が今なお不平等な国もある。

 アメリカでは「チェンジ」を掲げて共和党から民主党へ政権交代、史上初めての黒人大統領が選ばれた。たった1票ずつしかないけれど、その積み重ねで政治を変える事ができるということだ。私たちも頑張ろう。
 それにしても麻生さん、かつて地元の福岡県知事に奥田さんが当選した時「ご婦人方が票を入れたのでしょう。婦人参政権を与えたのが間違いだったかなぁ。」とコメントされたのをテレビで見て、私はびっくりした。




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