連載エッセイN
「老い」の「未来」は、高齢者自身が決める
横路 由美子

 先日、「福祉の国、デンマークに学ぶ高齢者の権利擁護」ということで、デンマークから2人の女性の高齢者と、通訳兼コーディネーターとして38年間デンマークに住んでおられる男性の千葉さんのお話を聞く機会をいろいろな団体とともに開催した。

 まず、ナンシー・ハンセンさんはデンマーク高齢者権利協会のオーデンセ(アルゼンチンの生誕地)支部長、元気いっぱいの65歳。
 デンマークは、人口500万、市町村275、高齢者人口100万人。(北海道にそっくり。参考になりそう。)高齢者権利協会は市町村単位で1987年に発足、高齢者の45%を組織する民間NGOである。一人年間1500円ほどの会費を納め、<高齢者の権利は、すべての人の権利>のスローガンのもと、きわめて民主的に運営され、行政をチェックしたり、生活の相談助言をしたり、レクリエーションや旅行の計画をしたり、様々な割引を受けたりできる。
 45万人の会員に加入の動機を聞くと、15%が行事の参加、16%が割引などの経済性、69%が自分達の意志伝達をあげている。若干の専門職を除いて、すべて無給のボランティアで運営されている。

 次にアイビイという人口1万5千人くらいの町の高齢者委員会の委員長で高齢者共同住宅の組合長、エデイト・ラムセンさん。10年前まで準夜勤の在宅介護の仕事をしていたという落ちついた感じの70歳。スライドを使って、高齢者の住宅の現状を話してくれる。

 高齢者委員会のメンバーは、各自治体ごとに4年に一度、60歳以上の選挙権、被選挙権で選ばれる無給の高齢者代表である。1自治体に9ないし10人程度、権利協会と同じく、やはり女性の方が多い。
 自治体は高齢者政策を決めるにあたって、必ず高齢者委員会の意見を聞かなければならない。(これは制度として北海道に取り入れるといいと思う。)
 いまデンマークではほとんど50人とかの大きな高齢者施設は建設されない。その代わり高齢者住宅や高齢者共同住宅が建設され、そこに住むようになっている。前者はいわゆるケアハウスに近く、ウェイティングリストによって入居が決まる。後者はいわゆる賃貸の10戸ほどの集合住宅と考えていい。住宅組合と7%の自治体からの援助を受けて建てられる。一戸ずつ独立したマンション形式の2DK(夫婦用はもっと広い)に、大きな食堂を兼ねる集会場もある。
 派遣されるヘルパーを頼むこともあるが、住民同士の助け合いもある。日本もこれから、親が子の世代と住むことを望めない(望まない)時代になる時、このような形が理想になるのではないだろうか。

 お二人の話は、話し振りも含めて実に魅力的であった。
 他人のことに干渉し過ぎない個の自立、親子の節度ある距離、老いに自ら立ち向かう気概と優しい連帯の心…、それを日本の私たちが身に付けるために、どれほどの道のりがあるであろうか。
 コーディネーターの千葉さんは「このような講演会では、決まって二つの質問があります。ひとつは、高い税金を国民はどう思っているか、もうひとつは、親子の情が薄く、自殺する老人が多いのではないか、という質問ですが、どこにも例外はありますと言いたい。」と言われた。(そういえば昨今の日本の、特に中高年の自殺率はすさまじい。)
 また「消費税が25%と高いこともよく宣伝されるが、もともとの値段がそんなに高くないので、負担感はそれほどでない」と言われた。親子関係も、一緒に住んで様々なトラブルを抱える日本より、けじめをつけつつ、親しく交流しているのもなかなか悪くないものだというのが、デンマークに38年住む千葉さんの感想である。
 全国調査によると、デンマーク人の50%は今の税金と福祉サービスを良いと肯定、25%は税金を安くしてほしい、25%は税金が増えてももっとサービスを充実させてほしいとしている。「負担」という概念よりも、連帯(お互いの力で支えあう)の意識がしっかりと根付いていること、そして「個」の自立、「個」の尊重がきちんとしていることに心打たれた。

 政治の目標が「すべての国民が不安感なく豊かに暮らせるように何をすべきか」ということに収斂され、そのために国民合意を作り上げて、着実に一つ一つ検証しつつ前進している国のあり方と比べて、いま日本で日常化しているワイドショー的政治に本当に情けない思いがしている。不安感いっぱいの日本はどこへ向かおうとしているのか?