アフガニスタン情勢と最近の小泉内閣

北海道余市町・余市地区連合学習会での講演
2001.11.9
衆議院議員 横路 孝弘

 今日の主なテーマは小泉政権の構造改革ですが、テロが起きて2ヶ月経ち、アメリカの空爆が始まって1ヶ月ということでございますので、今のアフガニスタンの情勢などこの問題について最初にお話をさせて頂きたいと思います。

今日のアフガンニスタンの情勢

 一口にアフガニスタンといっても、私たち日本にとってそんなに馴染みのある国ではありません。ソビエトが1979年にアフガニスタンに侵略したということで世界的に大きな話題になったわけですが、その後一体どんな状況で、どんな人々がどういう暮らしをしているのか、私どもがそんなに関心を寄せていたわけではないと思うのです。アフガニスタンの人口は2600万人。日本の国土の1.7倍という広さがあるのですが、国土の4分の3は山岳地帯で、それも3000メートルとか4000メートルとか相当高い山々が連なっている地域でして、産業といっても農業ですとナッツだとか果物を作ったり、羊を飼って羊毛で絨毯を作っていますが、いま一番問題になっているのは麻薬で、世界の麻薬の8割くらいをここで生産しているということです。
 これはタリバンがもっぱらやっているという話ですが、実はその前の北部同盟がこの麻薬栽培を始めまして、いまアフガニスタン北部の地域で麻薬であるケシの花の栽培が行なわれているという状況です。
 国連の難民高等弁務官をされていた緒方貞子さんが「アフガニスタンの人々は国際社会から見殺しにされた人々だ」という発言をされています。というのはその1979年、今から20数年前になりますが、ソビエトが侵略してきたときに、これに反対するためにアフガニスタンの中でいくつかの部族が集まりまして、組織をつくって抵抗したわけです。それを応援したのがパキスタン。同時に応援したのがアメリカのCIAで、CIAが武器を供与したり、ゲリラ戦法を教えたり、通信手段など全て教えました。そして「これはソ連に対する戦いだ」ということで世界中からイスラムの若い人たちが集まったのです。彼らはそういうトレーニングを受けて、そして戦って、10年間戦って勝ったわけです。
 いろんな知識を得た人たちの中でネットワークができて、そして戦争が終わった後それぞれの国に帰りました。フィリピンからもインドネシアからも来ましたし、いまロシアで問題になっているチェチェンからも来ました。中国の新疆ウイグル地区にもイスラムの過激グループがいます。世界中から来たそういう若者たちが勝ったと言って帰っていったのですが、そうした中で「アルカイダ」というひとつの組織がアフガニスタンに生まれたのです。
 その後まだソ連の影響の強い政権がありましたが、この政権が崩壊します。その後1992年に北部同盟が支配します。しかしこの北部同盟はきちっとした統治ができなかったのです。結局いろんな部族に分かれて、暴行したり略奪したり、混乱したのです。それを国際社会が放っておいた。つまりソ連が撤退した瞬間から国際社会の援助はパキスタンにもイランにも、あるいはアフガニスタン国内にも入らないようになってしまったのです。そういう混乱した状況の中で1994年、カンダハルを拠点として若い学生などが中心の「タリバン」が「これではダメだ」と立ち上がって、政権を樹立したのが今のタリバン政権なのです。
 ですからある意味では秩序を回復した政権とも言えるわけですが、しかしそれはイスラムの教えに従った非常に厳しい戒律を伴ったものでした。そういう意味ではやや恐怖政治的なところがありましたから、それに対する反発ももちろんありました。

3年続きの干ばつと空爆で多数の餓死者

 実はソ連との戦いや内戦を含めて、アフガニスタンはどんな状況になったのかというと、例えば今でも500万発から1000万発の地雷があちこちに埋められています。10年前ですとだいたい1ヶ月で800人くらいの人が地雷で亡くなっていたのです。NGOの人たちが地雷撤去活動をずっとやってきまして今はだいぶ少なくなってきたのですが、それでも1ヶ月に100人近い人が地雷で亡くなるという状況です。
 そんな状況の中でさらに何が起きたかというと、大干ばつが起きました。これは3年続きの干ばつなのです。
 地球温暖化の影響なのでしょう、北のヒンズークシ山脈が積雪量が少なくなって、水が枯渇してきた。水の豊かな日本などとは違い、本当に水を大切にしていて、雪融け水などをカレードという地下水路を通じて農業用水にしたり、飲み水にしていたのですけれども、その水がなくなった。人間というのは食べ物がなくても2、3日は生きていくことはできますが、水がなければ2日と持ちません。
 水がなくなってどうなったかといいますと、生活できないのでそれぞれの集落からみんなカブールのような都市に集まってきたのです。つまり水がなくなってしまって被災者になった。この被災者が1200万人といわれています。そのうち400万人が飢餓線上にありまして、国連の食糧計画がほぼこの400万人の人を相手にしてずっと食糧供給をしていました。400万人のうち100万人くらいは餓死寸前といわれています。そういう状態が今回のテロ事件の前にすでにあったのです。
そしてテロが起きて空爆が行なわれたことになります。いま難民の人たちは長い内戦の中でパキスタンに200万人、イランに150万人、中央アジアに10万人いるといわれています。この空爆が続いたら250万人くらい難民が出るのではないかという予測があった。ところが難民(国外に出た人)はいま8万人くらいなのです。
 どうしてかというと、国境が封鎖されているということもありますが、カブールからパキスタンやイランとの国境まで行くお金も元気ももうないのですね、みんな。難民となっている人は結構お金や力がある人なのです。車に乗るお金がある人とか、馬に乗るお金がある人とか、そういう人たちは難民になれるわけですけれども、全国あちこちからカブールなどに集まった被災者たち、もともとそこで生活していた人々はお金も元気もなく、国外に脱出できない。いまカブールにはそういう避難民とか被災者が100万人から150万人くらい、今年の冬を越せない人が10万人以上いるだろうといわれています。
 国連はもっと深刻に見ています。アナン事務総長が非常事態宣言を出しまして、700万人に食糧供給しなければいけないと言っています。しかし空爆が続くものですから、国連もほとんど支援できないでいます。

日本のNGOの活動

 そんな中、日本のひとつのNGO団体だけが今もカブールに食糧を送るルートを持って活動しています。その中心になっている中村哲さんというお医者さんをこの前、札幌にお招きして講演していただきました。これは「ペシャワールの会」という会が応援しているのですけれども、中村先生は1984年からパキスタンとアフガニスタンの山岳地域で活動してきました。初めはハンセン病の治療のために行かれましたが、衛生状態も悪いということで、今ではパキスタンの山岳地帯に2ヶ所とアフガニスタンの山岳地帯に3ヶ所、空爆が行なわれているカブールの中に5ヶ所の診療所を持って、現地のスタッフ240人と若干の日本人スタッフで医療行為を行なっています。年間20万人の人を診ています。これはNGOですからペシャワールの会の募金でもって活動している団体です。この医療活動グループはアフガニスタンにもパキスタンにもものすごく信頼があります。
 彼は医師ですけれども、現地は水不足がひどいので、ともかく医療行為はするけれども、水を何とか確保しなければいけないということで、手掘りで井戸をつくる活動にエネルギーを費やしまして、井戸を660ヶ所作ったのです。水が蘇ると誰もいなくなった村の緑が蘇って、またそこに人が戻り、今では30万人くらいの人々のための水の供給を行なっています。この空爆の中で数10ヶ所の井戸掘りをやっています。1千ヶ所を目標にして。またこの先生方のグループが食糧援助をしようと「アフガンいのちの基金」というのを10月につくりました。ペシャワールの会のホームページにも詳しく載っていますし、いろんな活動の様子がありますので見ていただきたいと思います。
 わが党が衆議院のテロ対策特別委員会に中村先生を参考人に推薦して出席して頂いたときは、「自衛隊なんか行くのは有害無益だ」とおっしゃいました。そして「難民の支援というのはやはり中立的な立場でやらなければならない。戦っている米軍を支援している軍隊が難民支援するといったって、それは誰も信用しないし、せっかく自分たちが築いてきた信頼関係がこのことで崩れるのではないか」と大変心配されておられました。いずれにしてもいま空爆が続いている中で、この先生方は非常に一生懸命やっています。
 国境のそばでは世界中のNGOが駆けつけて難民が来るのを待っているのですけれども、難民はいま言ったように来ません。むしろ難民になれない人々が国内にたくさんいる。そういう人々に国連もなかなか食糧供給できないでいるわけで、このごろアナン事務総長も空爆の停止を訴えています。
 まさにそういう状況の中で、危険を冒しながら診療行為や食糧供給している中村先生などのNGO団体を応援しようと、民主党も全国的な募金活動を11月初めから行なっています。昨日も新宿駅頭で1時間半ほど行いましたが、500人くらいの人がカンパしてくれまして、21万円も集まりました。いま失業しているのであまりカンパできないけれどもと言って100円、200円入れて下さる方もいまして、みんながこの問題に本当に大きな関心を寄せているのだなと非常に強く感じました。

必要なテロ防止の対策

 もちろんテロというのは許すべからざる行為です。テロはあちこちで起きています。IRAのテロなど長いことやっている紛争地域もあります。
 今回の事件が起きたときにアメリカは、これはアメリカに対する攻撃だとして自衛権を発動しました。自衛権の発動というのは、国と国との侵略行為があったかどうかということで、テロもその場合の対象になりうるのですが、しかしそれは国家が判断(指示・命令など)をしてテロリストを使って攻撃したというようなことが明確でなければならないのです。「侵略の定義に関する条約」という国連条約がありまして、その中ではテロについても侵略と言いうる場合もあるけれども、それは国家が主体となってテロでなければいけないとなっていますから、アメリカの自衛権発動にはなかなか無理があると思います。
 しかもテロリストを捕まえるためといってあれだけ大規模な空爆を行い、アフガニスタンを実験場にしているみたいにアメリカは開発したいろいろな爆弾を使っています。燃料気化爆弾まで使っているのです。
 ですから一般人の被害は本当に多く発生しています。アメリカは誤爆率15%と認めています。日本のテレビはあまり放映していませんけれども、外国のテレビ映像の中には子供たちが本当に悲惨な状態におかれている映像がたくさんあるようです。NHKはそういうのは放送しないことにしたと言っています。
 いずれにいたしましても一番大事なことは、テロの再発防止ということでいうと、まずテロリストについての情報を各国が共有することです。そして彼らの出入国を止めることです。それから資金をしっかり凍結すること。これがまずテロ対策の当面の非常に大きな対応、対策です。
 同時に、テロが生まれてくる原因はやはり貧困ですから、この貧困をどうやって無くしていくのかということが大変重要です。この前行なったG7、世界の財相と中央銀行総裁の会議で初めて貧困問題が議題に上がり、世界の貧困をどうするかという議論が行なわれました。それからイスラムでいうと中東問題、イスラエル、パレスチナにおける長い間の問題がたくさんありますので、こういう問題の解決が必要です。
 アメリカも最近になってようやく一国主義でなくなってきています。ブッシュ政権発足時は非常に一国主義でした。自分の国が何でもやるんだというので、COP3の温暖化防止条約について自分達は批准しないと言ってみたり、CTBT包括的核実験禁止条約にも入らないとかいろんなことを言ってきましたが、このテロ事件が起きてからいくつかの変化が生まれました。
 ひとつは国連への分担金を払ったことです。今までは国連なんていうものは相手にしないと、アメリカは自分一国で何でもできるから国連には協力しないというような姿勢でお金を払っていなかったのですが、これを払うようになりました。
 それからイスラエルに対する対応が変わりつつあります。いまイスラエルとパレスチナの一番大きな問題は、1967年の第3次中東戦争にイスラエルが旧エルサレム市街とヨルダン川西岸を占領して、そこにいたパレスチナ人を追い出して、そこにユダヤ人が入植したことです。これに関しては国連でもイスラエルは撤退しなさいという決議が総会で行なわれたのですが、アメリカはその決議に従いなさいとイスラエルに言ったことも、行動を起こしたこともありません。
 しかしこの前、イスラエルの閣僚が暗殺されて、それに対する報復としてまたパレスチナ自治区に軍隊を出したときに、アメリカはイスラエルに撤退しろというようなことを少し言っていました。このテロ事件によって世界は初めてテロに対して協力し合うようになり、アメリカは国交がないイランなどを含めて、いろんな国との連携・提携などネットワークが出来つつありますから、今後もその体制を維持すべきだと思います。
 日本は今まで中東諸国とは本当に友好的な外交をしてきました。中東地域で手を汚していないのは先進国の中で日本だけなのです。イギリスは第1次大戦、第2次大戦、その後はアメリカなど、欧米諸国は中東地域を植民地にしたりしました。
 日本はそれをやっていませんから中東のどこの国とも交流がありますし、実はアフガニスタンについては、北部同盟やタリバン、それから元国王の関係者などを今年の春に東京に招き、アフガニスタンの社会を何とかうまく治めていこうと話し合う会議を開くなど努力してきました。カンボジア問題では国際的な協力関係の中で日本も努力しました。いまカンボジアは見事に再生して新しいスタートを切っています。日本にはそういう経験もあるのでやればできるのですが、あのテロが起きたとき、小泉さんの頭の中には残念ながら自衛隊を派遣するということしかなかったのです。

テロ特措法は米軍の支援法

 テロ対策特別措置法についてですが、テロ対策はどこにもありません。米軍に対して自衛隊が協力するという、ただそれだけの法律です。この法律には今までの自衛隊の枠組みと非常に違った点がいくつかあります。ひとつは、日本の自衛隊は日本の国土を防衛する役割を持っている組織です。日本の国土を防衛するのですから、行動半径は日本の領土と領海とその周辺の公海ということになります。
 そして日本の国土が直接攻撃されて初めて自衛権が発動されます。その自衛権の発動も必要最小限度、やむをえない場合に必要最小限度の自衛権の発動ですよということで、例えば相手国まで踏み込んで攻撃することはしないというような原則をこの50年間の議論の中で持ってきていました。ですから日本の自衛隊は攻撃力を持っていません。飛行機でも、例えばここからアメリカまで飛んでいくことのできるような輸送機だとか、あるいは長距離ミサイルだとか、空母などは持っていないわけです。侵略を受けないように反撃する力を持つということで、相当強い軍事力を持っていますし、日本の陸上自衛隊と航空自衛隊はわりと防衛体制です。防衛が中心の戦略や考え方になっていますが、海上自衛隊は日本の3つの自衛隊の中ではちょっと特異なところがあります。いわゆる米ソ対立が非常に激しかったときに、ソビエトの潜水艦を発見する意味でアメリカとの共同行動が非常に進んだ組織なのです。
 米ソ冷戦時代には核戦略が対立していました。核戦略では大陸間弾道弾(ICBM)というのがあります。このICBMの発射基地はすぐに発見されてしまうので、攻撃されて破壊されてしまう可能性があります。そのときに攻撃されても報復する力を持つことが抑止力だというのが軍事的な考え方でした。その報復力というのは、ひとつはB52のような飛行機に核爆弾を積んで攻撃する。それからもうひとつは潜水艦です。海の中なのでなかなか発見されない、つまり非常に強い報復力になるわけです。
 そうやって米ソ冷戦時代に海の中でお互いに戦い合っていたのがオホーツク海と北極とヨーロッパの間にあるバレンツ海なのです。米ソは北極を挟んでお互い対立しているような関係になっていました。
 オホーツク海のソ連の潜水艦を発見するため、日本にはP3Cという対潜哨戒機、いま海上自衛隊は「対潜」という言葉を削除して「哨戒機」と言っていますけれども、これを100機も持っているのです。こんな国は世界でアメリカ以外にありません。そうやって冷戦時代はオホーツク海を、冷戦後は日本海で北朝鮮の潜水艦の発見のため米軍と日本の海上自衛隊はずっと協力してきました。
 P3Cの他にも、例えば飛行機の上に円盤のようなものを積んだAWACSという飛行機があります。これはボーイング767をベースにしたものですが、約500キロ四方を飛んでいる航空機の敵味方の識別ができます。また、いま問題になっているイージス艦という護衛艦のすごいところは、いっぺんに飛んでくる10機以上の航空機に対応できるだけの攻撃力を持っていることです。イージス艦とAWACSは連動していまして、AWACSから送られてくる情報をもとにイージス艦が敵に対してミサイルを発射するという仕組みになっています。
 そういうデータがアメリカの第七艦隊を中心とした海軍のシステムと完全に連動しているのです。
 海上自衛隊だけは、防衛というよりは外に出て行ってアメリカと一緒になってソ連の潜水艦狩りをしてきたという歴史があり、非常に強い能力を持っているのです。
 今回のテロ対策特別措置法では、そういった日本の一番の骨格のところが変わってしまいました。日本の国土が攻撃されなくても米軍の自衛権に協力するというわけですから、米軍の自衛権行使に協力するということは集団的自衛権の行使というしかないのです。

非常に危険なテロ特措法

 小泉さんは神学論争をやめようと言っていますが、神学論争を一番やったのが政府なのです。日本の場合は憲法9条で、国際的な紛争を解決する手段として武力の行使や武力による威嚇は行なわないとしています。そこで政府は「武力の行使」の解釈を狭めに狭めました。最近では「武力の行使とは人が殺傷されたり物品が破壊されるその現場だけが武力行使されている戦闘地域であり、例えば弾を飛ばすトマホークの発射は戦闘作戦行動、つまり武力の行使を行なっている地域にはならないので、これに対する支援ができる」という珍答弁を行ないました。
 実際、戦争で一番大事なのは補給です。アメリカでも戦闘を行なう部隊と補給部隊、負傷兵を救助する救助部隊がワンセットになって行動しています。だから、後方支援は戦闘行動ではない、武力行使ではないだとか、救助するのは戦闘行動ではないというのは全くの屁理屈なのです。アメリカは例えばこの地域を戦闘作戦地域とすると指定して民間機などに注意をするように、戦闘行動になると必ず告知のようなことをするのですけれども、トマホークを発射しているところなども完全にそういう地域になっています。ですから今回のことで非常に問題だったのは、日本の景気対策を早急に講じなければならない中で、テロの本質というものを見極めて、それに対して日本としてできる努力は何かを議論するよりも、ともかく自衛隊を米軍に協力させるということそれだけで2ヶ月も時間を費やしたということ。しかもそれは50年間日本が積み重ねてきた、我々がつくってきたひとつの基盤を崩してしまって、どこの国にも入れるようになってしまった。米軍とともに地の果てまで行くという自衛隊になりましたし、外国の了解があれば外国の領土領海にも入ることができるようになりました。これは非常に大きな問題点なのです。というのは、ベトナム戦争にしても前のアフガニスタン戦争にしても、ベトナム政府の要請を受けてアメリカは参戦しました。当時のアフガニスタン政府の要請を受けてソ連が入りました。だからいま北部同盟がカブールを占領して政権樹立して、それを各国が承認し、その政権の要請があれば日本の自衛隊はアフガンに行けるということになってしまうのです。
 外国政府の承認があればその国の中に自衛隊が行けるということは、まさに国際的な紛争の中に一歩踏み込むという、非常に大きな間違った一歩を踏み出したということになるのです。だいたい日本の過去の侵略行為を見てみましても、例えば中国へは満州帝国のようなものをつくってそこの要請を受けた形で軍隊が入っていきましたでしょう。これはもう歴史の教訓なのです。
 日本の国土を防衛する自衛隊が、アメリカの自衛権にも協力して、世界中どこにでも行けて、その国の政府の了解があれば中に入ることができるようになったということは、大変危険な一歩を踏み出してしまったということになると思います。いま海上自衛隊は先ほどのイージス艦を派遣すると言っていますが、あんなの行って何するのでしょうか。イージス艦は飛んでくるミサイルや飛行機の敵味方の識別をして、それに対して防衛するという役割ですが、いまアフガニスタンのタリバン政権がジェット機持っているわけではないし、中長距離のミサイルを持っているわけでもないし、潜水艦を持っているわけでもありません。政府は何を考えているのかもう本当に全くわかりません。日本の日の丸の旗を米軍と一緒に打ち立てるということのためだけにやるとすれば、これは非常に大きく間違った選択だと思います。
 今回のアフガニスタン問題はこれからまだまだ長期的な問題になるかもしれません。ウサマ・ビンラディンを殺したってまた同じようなテロリストが20人くらい出てくるでしょう。問題の根本的な解決のために、日本は世界の国とともに努力をしていくべきだというように思っています。

日本の社会状況は最悪の状態

 今度は少し小泉政権についてお話したいと思います。 いまの日本の社会状況は日本の歴史始まって以来の最悪の状況にあるのです。こんなことかつてなかったのです。
 例えば、自殺者は3万人超えています。これは3年前から3万人になったのです。その前は2万2〜3千人くらいだったのですが、いっぺんに7〜8千人増えたのです。増えたのはほとんど40代、50代の男性です。企業の経営者、リストラされた労働者、それから中間管理職の人たち、つまりリストラを会社の中でやらなければいけない立場に立っていた人たち、そういう人たちです。今年はもっと増えています。
 首都圏の鉄道は飛び降り自殺などでしょっちゅう止まっています。どこそこで事故が起き、ただいま止まっていますという放送がいつも入っています。
 それからホームレス。札幌にもホームレスの人が87人くらいます。実態調査をした結果を見たら、経営者だった方が5〜6人おられました。北海道から沖縄にいたるまで、東京の公園や大阪の公園はもうテントでびっしりなっています。いま民主党ではホームレスに対してしっかりした支援策を整備するために、住宅を供給したり、就職できるようにする法律を用意していますが、与党の中がちょっともたついていてまだ成立していません。
 それから犯罪のですが、窃盗や凶悪犯罪、あるいは家庭内での児童虐待やストーカー、交通事故まで含めて、犯罪も史上最悪です。日本ほど安全な国はないといわれていたのですが、今では検挙率がぐっと下がっています。ですから、警察官を5千人増員するという計画が出たり、留置場もいっぱいで人が溢れているというような状態なのです。これはもう日本の史上最悪の数字です。日本の歴史の中でこういうことはなかったのです。
 
問題だったバブルとリストラの10年

ではどうしてこういうことになったのかということですが、やはりバブルとリストラの10年が問題だったと思うのです。もちろんそれ以前に日本が高度経済成長を追い求めてきたということもありますが、やはりバブルとリストラの10年は非常に大きな影響を与えました。バブルというのは、まずひとつは銀行がお金を貸しすぎたのです。個人も企業も借りすぎたのです。どれだけの金額が過剰に貸し出されたかというと、だいたい260兆円といわれています。個人に50兆円、商業用不動産に110兆円、非製造業に100兆円。この260兆円が不良債権化したと考えればいいのです。不良債権というのは貸したお金が回収できない、借りたけれども返すことができないということです。銀行がすでに処理をしたお金は72兆円です。260兆円から72兆円を引くと、まだあと190兆円くらいあるということになります。実際に外資系のいろんな金融機関は約200兆円位まだ不良債権があると言っています。
 銀行はそれぞれ貸したお金について、返ってくる可能性があるかないか、担保を取っているかどうかということでいろいろ区分けをしています。その区分けでいいますと、金融機関がこの前潰れたマイカルをもともとそういう危険な債権に位置付けていたかというと、実はそうではなかったのです。
 今までの金融機関の査定は甘いから、検査を入れて、実際に回収するのが難しい債権がどれだけあるのか徹底的に調べろと、そしてそれを銀行はちゃんと引き当てしなさいということがいま議論になっています。もちろん景気が悪くなれば今まで健全な債権だったものが不健全な債権になるということもありますが、いま主に問題になっているのは中央のだいたい30くらいの企業、建設、不動産、流通ですね。ゼネコンを中心として30くらいの企業についてどのような対応をするのかということが議論されています。
 いずれにしても、「ハイリスク・ハイリターン」という言葉が出たのはあのバブル時代からです。リスクがなれければリターンもないよという、つまりそれは真面目に汗水流して働きなさいというのではなくて、あのとき長谷川慶太郎という評論家が何と言ったかというと「汗水流して働くなんていう時代は終わった。うまく頭を使って金儲けしなさい」ということを大いに煽ったわけです。そして「ハイリスク・ハイリターン」へ。それで銀行もみんなどんどん貸すし、個人も事業所も借りた。本業をちゃんとやっていたところはバブル崩壊後そんなに苦しんでいないのですが、そのとき投機に手を出したところはみんな大変厳しい目にあっているということです。
 つまりあのバブル時代を通じて、私どもが持っていた、ある意味でいうと「モラル」を喪失してしまったのだと思うのです。正義だとか平等だとか倫理だとかというような、そんな言葉がだんだん無くなりましたでしょう。このごろ平等といったら何か悪い言葉のように言われています。正義という言葉はどこかに行ってしまった。それはやはりバブル時の金まみれ感覚が日本人の中に残した非常に悪い影響だと思います。
 保険金殺人事件なんていうのがあちこちで起きています。自分の夫や妻や子供に保険金を掛けて、そのお金欲しさのために殺人するなんていうのは昔では考えられなかった。考えられないけれど、これが1件や2件ではないのです。何十件も日本の社会の中で起きているのです。
 一生懸命汗水流して働けば必ず報われるという、そういう確信で日本人は今まで一生懸命働いてきたと思います。そこが日本人の良さだと思うのです。労働倫理観というものが非常にあったと思うのですけれども、それがバブルの中で失われてしまったのだと思います。同時に、カネにモノを言わせて何でも買いあさった。アメリカの象徴的な建物などをどんどん買って、今ではあれもみんな手放したといっていいと思いますが、買った値段の二束三文で手放しました。
 そういうような中から、やはり謙虚さみたいなものを失ってしまった、金さえあれば何でもできるというような錯覚を日本人はしてしまったと思います。

バブル崩壊後のつけ

 そのバブルが崩壊して、今度はリストラ。借金がたくさんあるのに、売上がなかなか伸びない。売上が伸びないのに借金を返していかなければいけない。そこで固定経費を落とすためにどうしたかというと、人件費を徹底的に削減してきたわけです。
 例えば1998年から99年の1年間で、人件費の削減がだいたい5兆円。年収500万円くらいで100万人分くらいの人件費の削減になりました。つまり人がどんどんクビ切りに、特に40代50代の、先ほど自殺が非常に多いと言いましたけれども、40代50代の一生懸命会社のために家庭のために働いてきた人たちがクビになっていったわけです。
 雪印やJCOの事故だとか、新幹線のトンネル事故などいろいろありました。日本の社会の素晴らしい点は、技術を人から人へ伝えていたところです。トンネル検査の話をJR関係の人に聞いてみると、あれは確かにトントンと叩いて、音でもって中がどうなのかを検査するのですが、やはり先輩に付いて一緒に回って、体で覚えていくものだと、マニュアルでやったってだめだという話でした。雪印の場合も、40代50代の技術者が工場内の中核の責任者にいれば、何が問題なのか上層部に話がいっていたのでしょうが、結局現場の声が上層部に上がるような仕組みではなく、どうも経理中心で、ともかく何とか利益を上げるようにしろということで、一番大事な安全性が欠けていたようです。そういうことはやはり企業の中で人間を粗末にしたこと、40代50代の一番技術を持っている人々をおっぽり出して、人件費の安い人に代えていったということの影響もあると指摘されていますが、私もそのように思います。
 そうやってバブルとリストラの10年が経過して、日本の社会の中でどういうことが特徴として出てきたかというと、ひとつは雇用が非常に不安定になったということです。

深刻な雇用問題

 この前の数字で失業者が357万人。この失業統計に出てくる人というのは「仕事がしたい」と仕事を求めている人なのです。ところがここ数年、仕事を求めても仕事がないから諦めてしまった人がいるのです。そういう人たちがだいたいどのくらいいるかというと、内閣府の調査でおよそ400万人。357万人の失業者の他に400万人。本当は仕事がしたいのだけれども仕事に就けなくて諦めてしまっている人がそれだけいるということです。これを合わせたら失業率はもう10%を超えているのです。さらに「フリーター」と呼ばれる若者がいます。どのくらいいるのか調査されていないのではっきりはわかりません。150万人とも200万人とも、前にニューズウィークが350万人という数字を出していました。350万人はちょっと多いと思いますが、フリーターについての社会的調査をしたデータを見ますと、親と同居している人が圧倒的多数です。東京の調査では、ときどきアルバイトして月に10万円くらい稼いでいるということです。フリーターの中には、なかなか正規に就職できなくて、自分にはどういう適職があるのかと探している人もおられますが、もう仕事をする意欲が無くなってしまっている人もいますし、いろんな人がいます。学校を卒業しても就職できない人もその中に入っています。
 しかしいずれにしても、そういう人が何百万人もいるということは大変なことです。定職に就けない、つまり親の財産をある意味でいうと喰っているわけで、定職につかないから、きっと結婚するということもないでしょう。すると日本の社会が将来どうなるのか。ともかく雇用が流動化して、何かひとつの仕事に、同じ職場にいるのは何かバカみたいなこととみんなが言うわけでしょう、能力に応じてどんどん移りなさいとテレビに出てきて言っています。しかし、アメリカでも転職して本当にだんだん給料も良くなっている人はだいたい1%くらいといわれているのです。学校を卒業して初めのうちはどういう職があるのかと、アメリカでも転職するようですが、しかし結婚したらやはり落ちついて仕事したいというのがアメリカの世論のようです。
 いま日本では正規社員がどんどん減っていっています。この1年間でも200万人の正規社員が減って、パートと派遣労働が200万人増えました。いまパートと派遣労働はだいたい1400万人。働いている人の3割がパートと派遣労働です。
 パートと派遣労働の場合は正規社員に比べて給料が34〜5%くらい低い状態にあります。そして中には雇用保険もない、例えば時間でいいますと1日4時間で週20時間以内だと雇用保険は掛けてなくていいとなっていますから、みんなのパート労働はそんな時間に抑えられてしまうということで、どんどんパートと派遣労働が増えていっています。そうすると、企業の中に正規社員がいて、アルバイトの社員もいて、パートや派遣労働がいるというひとつの階層が社会の中に生まれつつあるのです。そういう階層が固定化した社会ではないというのが日本社会の強さだと言われていたのですが、いま大企業から中小企業を含めてそういう階層がずっと生まれつつあります。もしこれが社会全体を覆って、固定化してしまったら大変なことになります。日本は階層が固定化した社会になってしまいます。いろんな問題がそこから生まれてくる可能性もあります。
 私はこのパートと派遣労働については差別を一切しない「同一労働同一賃金」という原則を打ち立てて、これからはどちらかというとやはりワークシェアしていかなければならないと考えています。労働時間を減らして、減らした部分の給料は減るかもしれませんが、みんなでワークシェアして、その上パートや派遣労働の社会保険の適用も全部差別をなくしてしまう、休暇やその他も同じように労働時間に応じて与えられるというのが、オランダで行なっている「オランダモデル」といわれているものなのです。オランダでは例えば週40時間労働とか週35時間とか、つまり週休2日とか3日とか4日という労働形態があるのです。そしてだいたい夫婦2人で働いて、その労働シフトをうまくやることによって子供にいつも父親か母親が家にいるような、そういう労働の選択などもするようになっています。
 日本でもこの問題を本当に真面目に考えなければ大変なところにきているというように思います。雇用が非常に流動化してきた、これが日本社会の非常に大きな問題点で、その上さらに小泉さんがやろうとしている改革の中で、この前、坂口厚生労働大臣も発言しましたが、「解雇の自由」ということがだんだん表に出てきています。
 日本のいまの労働基準法では、解雇は1ヶ月以上前の予告か1か月分の給料を払えば解雇できるようになっていますから、ある意味では自由なのですが、しかし判例がありまして、解雇に枠をはめています。4つの要件がありまして、本当に企業は解雇しなければいけない必然性があるのか、その解雇の対象になった人にその人が選ばれる必然性があるのか、企業は解雇を避ける措置をとったのか、手続きがきちんと行われたのか、いろんな要件があります。
 その要件を、連合は法制化しようとしていますが、政府はその判例で確立した原則を法律によって変えようとしているのです。解雇を自由にしようというのは小泉さんの考えです。小泉さんが総理大臣になって最初に厚生労働省とヒアリングしたときに彼が厚生労働省に話をしたのです。
 これはたぶん企業にとっても得ではないと思うのです。みんないつ解雇されるのかクビになるのかわからないというのは、落ち着いて会社のために一生懸命働くということになりません。アメリカは解雇自由社会にやや近く、逆にヨーロッパは解雇は簡単にはできません。いろんな制限が各国ともだいたいかかっています。
 そんな意味で小泉さんの改革のひとつはこの「雇用の流動化」、解雇を自由にするというのが出てきます。もしそんなことになりましたら、人々は益々不安を持っていくということになりますから、益々お金を使わなくなるでしょう。

広がる所得や資産の格差

 それからもうひとつ、この10年間に所得や資産の格差が非常に出てきたということです。日本にはそんなに格差はありませんということだったわけですが、その格差が出てきました。平成10年度の数字なのですけれども、益々格差が広がる傾向が強くなっています。例えば貯蓄額について、高齢者世帯、雇用者世帯というのがあります。貯蓄額の200万円未満でだいたい4割、つまり40%の雇用者世帯も高齢者世帯も貯蓄は200万円未満ということです。よくサラリーマン世帯の平均貯蓄額が1千何百万円とか出ますけど、あれはたくさん持っている人もいるから平均化されて高くなるだけで、皆さんの実感とは相当違うと思います。
アメリカのモルガン・スタンレーという会社が東京と神奈川と埼玉の金持ちを調べました。上位5万人の人が持っている資産総額、いくらだったと思いますか。240兆円なのです、5万人で。一人50億です、東京、神奈川、埼玉だけで。やっぱり土地関係の人が多かったようです。そうやってたくさん持っている人もいますが、本当は200万円未満という人が4割、高齢者世帯でも雇用者世帯でもいます。よく高齢者はお金があるから高齢者の人がお金を使えるようにしなければいけないと堺屋さんもよく言っていましたし、竹中さんもそんなことを言っていますけれども、もちろん持っている人もいるかもしれませんが、平均でいいますと年金だけで生活されている方が6割くらい。その年金の年収は200万円以下といわれる方がやっぱり半分くらいということで、非常に持っている人もいるけれども、そうでない人が大きな部分を占めているということをちゃんと考えて年金や医療や介護をどうするかということを考えないと、いま政府が言っていることを全てやったら大変なことになります。
 つまり雇用も非常に流動化して不安定要素が高まってきて、そして所得も資産も分化してきているのです。その分化の割合は、四文位から五文位くらいで分けている層でいいますと、高い層の所得が年間で1299万円、低い層の所得が164万円です。この高い層と低い層との差がだんだん拡大してきているのです。高い層と低い層との間は、90年に6.7倍だったのが、99年には7.5倍に拡大していっています。
国民の負担増となる小泉総理の構造改革
小泉さんの行なっている構造改革というのは、ベースとして何を言っているかというと、皆さんそれぞれ自己責任でやりなさいと言ってますでしょう、自己責任でやりなさいということは国や地方自治体の負担は軽減しますよという話にもなるのです。
 こういう改革のお手本として言われたのが、イギリスでサッチャーさんがやったのと、ニュージーランドの改革です。その結果どうなったかというと、これはもうみんな同じです。やっぱり犯罪が増えて、貧困が増えて、社会保障の費用は削ったのですけれども結局は負担が増えてしまったという現象になっています。
 ちょっとニュージーランドのことをお話しますと、ニュージーランドは所得税の最高税率を下げて、その代わり消費税を拡大しました。年金の支給は年限を引き上げて、支給金額は80%から65%くらいまで下げました。それから補助金なども削減して、医療や教育については本人の負担が増えました。これらはいま小泉さんがやっぱりやろうとしていて、年金に対しては課税を強化するというようなことも言っています。それから国有企業などは全部売り払ってしまって、外国の企業がほとんど買いました。例えば銀行はオーストラリアとかイギリス、航空会社はカナダでしたか、鉄道はアメリカということで、外国資本がみんな押さえてしまったのです。17あった金融機関のうち、ニュージーランドの国の金融機関はたったひとつだけになってしまった。働いても働いてもその利益はみんな外国に持って行かれるものですから、いま政権が代わって、ニュージーランドでもやっぱり自分達の国のちゃんとした金融機関をつくろうというような動きになっています。
 結局、ニュージーランドが改革をやって良かったのは何かというと、これはちょっと皮肉混じりに言われているのですが、レストランとかショッピングなどが24時間営業になって夜でもどこでも買い物などできるようになったと、これがニュージーランドの規制改革における唯一の成果だなんて言う人がいるくらいです。郵便局も独立採算制になりまして、過疎地の郵便局はみんな閉鎖されてなくなってしまったのです。
 規制緩和について、確かに日本の場合も今までのように政府が護送船団方式で全部やるということが良いかというと、やっぱりそうではありません。市場というのは確かに自由にしなければいけない、それはフェアな競争を前提にしてですが、しかし社会に競争と効率の原理を入れてしまうと社会というのはやっぱり崩壊してしまうのです。
 いくら経済が自由であったって、その市場に対する信頼感が無ければ企業だって個人だってお金を使わない。やっぱり安心感が社会に必要なのです。例えば警察とか消防とかは、我々はそんなにお世話になることはないけれども、しかし警察や消防があるという安心感があって、地域の中で人々は社会生活を送ることができるわけです。
 そういうものは公共的な財と言われています。教育もそうでしょうし社会保障もそうです。ただ単にサーカスの綱渡りをして、落ちたときに困るからネットを張ろうというセーフティーネットというのではないのです。
 もっと社会そのものが安心して生活できるような仕組みをつくっていかなければいけない。その公共財は誰が提供するかというと、やはり一義的に国や地方自治体です。ただ中央政府や地方政府が全部やれるかというとそうではなくて、最近ですとNGO、NPOが頑張っています。いま介護保険が行なわれるようになって、いろんなNPO組織が参入していろんな活動をしています。民間からもいろんなサービスが提供されるようになっていますから、そういうネットワークがもちろんこれから必要なのですけれども、ベースになることはやはり政府がちゃんとやっていかなくてはいけないと思うのです。

今、必要なのは景気対策と構造改革

 小泉さんが構造改革を掲げてから5ヶ月経って何をやってきたかというと、ひとつは道路特定財源を廃止すると言いました。あの話最近聞きますか。全然どこかにいって無くなりました。もともと私ども民主党は、いま必要なのは景気対策と構造改革の両方必要だという考え方です。森さんや小渕さんのときは「景気回復なくして構造改革なし」と言っていたでしょう。いま小泉さんは全くその逆で「構造改革なくして景気回復なし」と言っています。二つを対立させているのです。
 そうではなくて、構造改革をやりながら、なおかつ景気回復の政策も必要なわけです。例えば日本とヨーロッパを比べた場合の非常に大きな違いはどこにあるかというと、よく「小さい政府」「大きい政府」ということをいいますけれども、国民の皆さんに聞くと、日本の政府は大きい政府だ、と言う人が多いのです。大きいところもあるし小さいところもあるのですが、しかし大きい政府である最大の所以は公共事業予算のGDPに対する比重が非常に高いということです。8%くらいです。いま全部を含めた事業費で40数兆円です。だいたいGDPが500兆円をちょっと切っているくらいのところですから、8%くらいとかなり高い。先進国はだいたい2%くらいです。
 もうひとつは許認可権です。中央政府の持っている許認可件数はいま1万1千件くらいで、これはどんどん増えていっています。もちろん許認可は、例えば人々の安全や環境を守るとか、人権だとか、働いている人の権利を守るとか、そういう許認可は必要なのですが、経済的な分野での許認可も増えているのです。これは非常に大きい、つまり大きい政府と言われる所以です。
 ところが、例えば社会保障費のGDPに対するウエイトを見てみると、日本はアメリカよりも低いのです、アメリカよりも。アメリカやイギリスなど低いラインがあって、高いところに北欧諸国があって、その間にドイツやフランスがあります。日本はその一番低いアメリカやイギリスよりも低いのです。どうして社会保障給付のGDPに対するウエイトが日本は低いのかというと、これは特殊日本的な要素があるからです。ひとつは家庭で家族が介護などをしてきたという家庭の機能、それから企業が福利厚生事業でもってバックアップしてきたという、この二つの要素が非常に多くて、政府の支出は非常に少ないのです。
 特に社会保障給付で少ないのは何かといいますと、ヨーロッパと比べると二つありまして、失業給付と児童手当です。この二つが社会保障給付で非常に低いのです。それから皆さんは、日本は税金が重いと感じておられると思いますが、これも先進国の中でいいますと税負担はいま最低なのです。法人税の負担も個人の所得税の負担も先進国の中でいいますと全体に占めるウエイトは一番低いくらいです。今度アメリカが所得税の減税をやればアメリカのほうが低くなりますが、いずれにしても日本はそういうアメリカ・イギリス型くらいの構図構造になっているのです。
 それから公務員が非常に多いといわれていて、いつも公務員は削減対象になりますけれども、実は人口対比でいいますと日本は先進国の中で最低なのです、本当に低いのです。日本では何となくみんな「日本は大きい政府だから小さい政府にしなければいけない」と言うけれども、中身を見るとそうではないところがたくさんあるのです。
 そうすると構造改革というのは、例えば財政でいいますと歳出の構造を変えるということですから、公共事業の8%を少しずつ減らしていって、そして社会保障給付を上げる、例えば児童手当でも失業給付でもいいわけです。もちろん失業給付はただ給付するということではなくて、それに伴ってどういうトレーニングをするのかということを各国とも非常に綿密にやっています。
 いま日本には1年以上の長期失業者が約100万人、98万人くらいいます。イギリスやスウェーデンではそういった長期失業者に対して、どういう仕事が適職なのかをマンツーマンで話し合うカウンセリングを行なっています。例えばイギリスの場合ですと、3ヶ月やって仕事に就けなかった人はいくつかの仕事をやってもらいます。その中にはNGOやNPOでボランティア活動をするというような仕事もあったり、その人の適性を見出すというようなマンツーマンの仕組みがイギリスでもスウェーデンでも行なわれています。日本はまだそこが非常に弱いところです。特に年齢の制限などいろんな制約などもあって、そういう対応は非常に不十分ですから、世帯主については失業給付を延ばすと同時に、そういう対応をしっかりやっていくことが必要になってきます。
 財政では道路特定財源をやめてしまって、その中の一部を地方財源にするとか、あるいは社会保障の給付に回すということで歳出構造が変わっていくのです。
 いま公共事業投資と社会福祉投資の比較は政府も行なっていますけれども、最近の雇用効果でいいますと福祉投資のほうが倍くらい大きいのです。同じ1兆円を福祉に投資した場合と公共事業に投資した場合の雇用吸収力は倍も違うのです、福祉のほうが多いのです。生産波及効果もほとんど変わりません。それはどうしてかというと、やはり日本の産業構造が変わってきていまして、サービス産業が中心になってきているからです。これからは個人に対するサービスや企業に対するサービス、こういう産業がだんだんウエイトを持っていくことになると思います。
 個人に対するサービス産業として先進国で伸びているのは、ひとつはやはり健康関連の産業です。自分の健康を守るというのが人の関心の第一だからでしょう。それからもうひとつは自己実現といいますか、レジャーや教育、文化というような様々な活動について自分を満足させる、そういう分野のサービス産業は伸びています。
 企業に対するサービス産業でいま一番伸びているのは多分人材派遣とか人材教育という分野だと思いますし、これから益々伸びるだろうと思います。
 もちろん日本の場合、製造業は非常に大きなウエイトを持っていまして、これからも大事な産業ではあるのですけれども、ユニクロは労働賃金の安い中国で製品全てを作っていますからあれだけ安い製品が入ってくる。それから農産物でも日本のある商社が中国に行って農業指導していますから、本当に良い農産物が安く入ってくる。そういうのはこれからの時代の流れであって、日本の産業全体としてそれをくい止めるということにはなかなかできないだろうと思います。
 特に先ほどテロについてお話しましたけれども、開発途上国の貧困をどうやって解決していくかということになりますと、やはり日本が担うべき産業分野と途上国でなければ出来ないような産業分野がありますから、そういうことでの分担は少し時間をかけて、国内のいろんな問題は解決しながらもそういう方向に向かって流れていくのではないかと思っています。

何も進んでいない小泉総理の構造改革

 小泉さんの改革で、道路特定財源についてはどこかに行ってしまいました。それから特殊法人はどうなのかというと、特殊法人はたくさんあります、もう役割を終えたものもあります。私はもともと必要ないと考えている核燃料サイクル事業団なんていうのは潰してしまったほうがいいと思っていますし、あるいは本州四国連絡橋公団などもそうです。しかし本当に潰していいかどうかよく考えなければいけないのも中にはあるのです。例えばいま問題になっているのは日本育英会の事業です、奨学金の事業です。いま育英会事業で無利子の奨学生が42万人、有利子で33万人ですから、75万人の学生がこの育英会の奨学金を受けています。この育英会も特殊法人の対象になりましたから、文部科学省が来年度予算の概算要求で無利子の奨学金のところの予算を大幅にダウンして要求しています。文部科学省は来年度、無利子のほうを1万6千人減らして、有利子のほうを上げようというようなことを言っています。こういうところにも悪い影響は出ています。
 育英会の奨学金をなくそうという理屈は、銀行などの教育ローンがあるからいいではないかという理屈です。ところが育英会と民間の銀行とは大きく違う点がありまして、ひとつは親の所得です。育英会は親の所得が高い場合、奨学金は借りられません、それは親がちゃんと子供の面倒を見なさいということです。一方で銀行の教育ローンは親の収入が低いと借りられないのです。銀行ローンの場合は親が借り主なのです。育英会の場合は本人が借りる仕組みになっています。ですから銀行の教育ローンだけになってしまったら、結局はある程度所得がある親でないとお金が借りられないから、所得の低い親は子供を学校にやることができない。しかも今また大学を全部民営化するとか言っていますから、どうなるのかちょっとイメージできませんが、たぶん授業料が上がるのではないでしょうか。
 これからは人材の育成が必要だといって「米百俵」なんて言っていた人が、こっちの手ではこうやって無利子の奨学金を減らすということをやっているわけですから、全く何をやっているのかと言いたくなります。
 それから住宅金融公庫、これも同じ理屈です。民間の銀行にも住宅ローンがあるわけだから、住宅金融公庫は無くたっていいという理屈です。では住宅金融公庫がなくなったときに、本当に銀行が競争して利子の安いいろんな制度ができるかというと、どうですか皆さん。やはり今までは住宅金融公庫にある程度低い利子のシステムがあるから、銀行のほうもそれに合わせているというところがありましたでしょう。今まで借りていた人がこれからどうなってしまうのかなどいろんな問題があります。
 ですから特殊法人改革も中身をよく見てやらなければいけませんが、今の自民党の中ではもっぱら道路公団など4つの公団の問題で攻防戦が繰り広げられております。
 結局小泉さんが言ったことは、いずれも中途半端で何も実行されていません。不良債権の処理という非常に大事な問題でさえ、担当大臣である柳沢さんと他との意見が違ってしまって、何にも手が付けられない状態。手を付ければまた失業者が増えます、100万人以上増えることになります。
 この前発表された失業率5.3%、失業者357万人という数字はまだテロや狂牛病の前ですから、この次に発表されるのはさらに悪いでしょう。テロの影響で旅行関係はバタバタとクビ切りをしています。世界中で航空会社が潰れていますでしょう。それから国内では肉を扱っているお店は狂牛病でもう本当に大変です。7割8割くらいの減収になっていますから、そういう影響がこれから数字として出てくることになります。
 そんな意味では本当に大事なこの2ヶ月間を、自衛隊を送り込みたいという小泉さんのそれだけの思いで使い果たし、他の大事な議論が全然されないで非常に厳しい状況を迎えて、小泉さんが言っていた改革そのものも進んでいません。

どうする年金や医療などの社会保障

 そして一方で年金や医療、介護などの社会保障についてですが、例えば医療で出されている改革案は何かというと、一言でいえば要するに患者負担を増やすというだけの話なのです。何の構造改革にもなっていません。本当はお医者さんの診療報酬をどうするのか、薬価の問題をどうするのか、高齢者の医療制度をどのようにするのかというのが抜本解決なるものの一番のポイントなのです。
 それがなくて、今回は患者負担をだいたい3割に揃えようとしています。それで上限はなくなりますし、しかも問題だと思うのは「混合医療」を進めていこうとしている点です。混合医療というのは保険の適用外医療を増やすということです。これは今もあることはあるのですが、保険内の医療はやりませんよというお医者さんはほとんどいません。しかしこれからはそれを増やしていこうと。そしてそれを増やすために高齢者医療の上限をセットするというのです。方法はいろいろあるようですが、トータルに考えて、ある上限を超えた場合にはあとで精算するという方法を考えているようですが、結局そういうことをやるとどうなるかというと、お医者さんは高齢者医療について徹底的に治療するというよりもやはり医療費のことを考えてセーブをかけます。セーブをかけたときに保険外の診療行為をもう一つ残しておいて、お金のある人はその診療が受けられる。お金のない人で保険だけの医療の場合は抑え込まれて、結局はどういう治療になるのかわかりません。
 そういう制度が入ろうとしています。これは抜本改革と全く関係ないのです。つまりここに入っている思想も、自己負担、自己責任ということです。
 競争原理を入れて、雇用も流動化して、格差が広がっていって、犯罪が増えて、自殺が増えてという社会になっているのです。こういう社会の方向で本当にいいのかどうかということがいま非常に問われているのです。
 テレビをつけると構造改革論者ばっかり出てきて、規制緩和すれば景気が良くなるみたいな話をしているでしょう。規制緩和したからといって景気がすぐ良くなるわけではありません。規制緩和しなければいけない分野もあるし、環境を守ったり安全を守ったりするために規制をちゃんと残しておかなければならない分野もあるわけですが、どうも最近の世の中は、平和のことを口にすると間違っているみたいな、戦争といえばそれでみんな突っ走っているような評論ばっかりです。
 やはりみんなでもっと発言しなければいけないと思うのです。さわやか財団の理事長をされている堀田力さんという元検事の方と2年程前にお話したことがあるのですが、彼はこう言っていました。「治安を守る元検事の立場でこんなこと言うのはおかしいけれども、いったい学生は今どこで何をしているんだ」と。つまり街頭に出てきて声を上げろということなのですが、いま日本の大学生は大学の中に閉じこもってしまって、ほとんど出てきません。大学にはいろんな新興宗教のサークルみたいなものが結構あって、あとは遊びのサークルばっかりです。社会科学を勉強しようなんていうサークルはほとんどなくなっています。
 それは何も学生ばかりではなくて、労働組合だって政党だって、今どこで何をしているんだということがまさに問われている、そういう時代だと思います。
 多分これからの社会状況とそれを表す数字はまだ悪くなるでしょう、失業率にしても何にしても。本当に残念なことだと思いますが、やはり基本のところから政治を変えていかなければなりません。私どもはこれからも頑張っていきたいと思いますので、どうか皆さんのご支援をお願いします。

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