対談:政権交代で腐敗政治を断つ
―野党第一党として民主党の道―

政治評論家「森田 実」氏と「横路 孝弘」
2000年11月17日(東京)
森田 実 氏
森田 実 (もりた みのる)
 政治評論家。1932年静岡県生まれ。東京大学工学部卒。日本評論者『経済セミナー』編集長などを経て、1973年から評論家として著作活動や講演などで活躍。フジテレビ系「めざましテレビ」にレギュラー出演中。

自民党との違いを訴えるとき

横 路 今年6月にわれわれは、政権交代をかけた総選挙を闘いました。総選挙の争点は、森総理の総理としての資質、あるいは自民党のリストラ後10年経ってもさっぱり景気がよくならない政権担当能力というものが問われた選挙でした。
 それと同時に自民党に代わる野党第一党の党首の資質とか、野党第一党の政策というのは本当に大丈夫なのかということが合わせて問われた選挙でした。
 高い投票率を期待していましたが、結果は予想外の低投票率でした。国民の回答が低投票率になって表れたのかなと思います。私どもから言えば、その代わり時間が与えられた、32名ほど議席増えたわけですから、次の参議院と衆議院へのチャンスを与えられたという思っています。
 ですから民主党にとってこの1〜2年というのは非常に大事なときです。しっかりとした政策をもった政権政党としての方向性を民主党は出せるのかが問われていると思います。その場合によく聞かれるのは、自民党との違いはいったいどこにあるのですか、対抗軸は何なのですかということです。
 自民党は巨大な、しかも幅の広い政党ですから、民主党の中にも考え方が重なっている人々がいるのは当然です。しかし政権交代を担う対抗軸として考えれば、自民党のなかに収まるような民主党であったのでは、政権交代として対抗できる政党にならないわけで、やっぱり対抗する軸が必要だということだと思うのですが、如何ですか。

森 田 率直に言って、鳩山代表は総選挙後、民主党を台無しにし国民の政権交代への希望を奪うような言動を始めました。総選挙における民主党の結果は実力より20〜30議席少なかった。なぜ実力どおりの議席を取れなかったのか、なぜ多くの国民が期待していた政権に肉迫するような議席を取れなかったのか、この点を充分に反省し分析して謙虚に再出発をはかるべきところなのに、最も大事な謙虚さを捨てて、憲法9条改正や自衛隊を国軍にすべきだとか、果ては集団的自衛権を認めるべきだとの主張を繰り返しています。
これは、多くの国民にとってはほとんど関心のない問題、つまり保守のタカ派、一部の右翼イデオロギストだけが言っている問題を政治の中心テーマにすることによって、現在、政治が取り組むべき最も深刻な問題から国民の目をそらせるだけだと思います。
 さらに重要なことは、民主党という国民にとっての重要な政治的財産、つまり政権与党がダメになった場合に政権をとって代われる野党第一党の分断、分裂を意図的にやっていると思われるような行動をとっていることです。これはどう見ても、子供じみた「純化政策」です。つまり、自分についてくる人間、ついてこない人間を「憲法9条改正」というリトマス試験紙でテストして、そして自分についてくるものだけの政党にしていこうとしているのでははないか。「純化」というのは小さなイデオロギー集団とか宗教集団とかのリーダーが陥りがちな病です。これを国民的な財産である野党第一党において仕掛けるというのは、一種の狂気としか私には思えません。
 いま日本社会には解決すべきいろいろな問題があり、政治がその先頭に立たなければいけない。そのなかでの民主党党首のこの錯乱行為は信じがたいほどの愚行ではないでしょうか。私は最近ちょっとした病気で休んでいて充分な言論活動ができなかったのですが、だんだん体調が回復してきましたので、これからは徹底的に鳩山党首を糾弾していこうと思っています。彼が党首を辞めるのか、さらに政治家を辞めるのか。百歩譲って、これまでの自分勝手な言動を悔い改めて党内の総意に従って行動をするのか。さもないと、日本の政治にとって最も必要な政権交代は「夢のまた夢」になってしまいます。
横路・森田 対談の様子
民主党は存亡の危機

横 路 今年の党代表選挙を無投票で終わらせてしまったことには私にも責任がありまして、鳩山さんとはその前に2時間ほど話をしました。特に憲法の問題については、国会の憲法調査会で5年間じっくり議論することになりましたし、党内にも憲法調査会を設置しましたので、それらの議論を見て、鳩山さんには慎重に対応してほしいという話をし、彼もわかったと言ったのですが、その後、突然ああいう発言をしてしまっています。
今やるべき改革課題がたくさんあるなかで、なぜいま憲法の問題なのか理解ができません。憲法改正しないとできないのかというと、そんなことはないわけです。
 鳩山代表はこの間の発言で求心力を失ってしまっています。鳩山代表に対する信頼感というのは世論調査によると森総理より低いわけですから、本当に情けない話です。多くの支持者の皆さんに不安と不信感を与えたことを申し訳なく思っています。

森 田 本当に鳩山代表は情けない野党第一党党首です。最近、私は講演のときに鳩山代表とか鳩山さんと表現する気持ちがなくなってしまいまして、愚かなる鳩、「愚鳩」だとまで言っています。そんなとき、私のこの発言に反発する人は皆無です。つまり、この時代の変わり目の大きなチャンスのときに、民主党はなぜ、国民の気持ちが分っていないあんな愚かな発言をする人を党首に据えているのかというのが普通の人の反応です。私の近所でも総選挙の際に民主党を応援した人たちは、家内のところに来ては「鳩山さんがあんな議論をしているようでは失言を繰り返している森さんにも勝てない」「クエスチョンタイムでの議論などを見ても印象が暗い。あれではダメですね」というようなことを言っています。こういう見方が、総選挙で日本の政治を変えたいと思って民主党を応援した人たちの中に広がっている。これに気づかないと、民主党は本当に存亡の危機に直面すると私は思います。

悪化している社会状況…腐敗政治

 横 路 自民党の対抗軸は何かと言えば、経済は市場主義でいいのですが、社会も市場化して、競争と効率の社会にしてしまったのでは大変だと思います。
いま自殺者が急増していて、昨年の自殺者は史上最高の3万3000人です。特に40代、50代が増えており、ホームレスも昨年は2万人以上もおり、1年間で約4000人増加しています。
 また失業者が310万人いて、これは表に職を求めているの数字であって、最近「失望者」といって、仕事を求めるのをあきらめた人々が400万人いるといわれており、400万人のうち180万人がフリーターといわれています。
 いろんな数字を見ていると、社会状況は確実に悪くなっています。生活保護を受けている人も急増して100万人を越えました。また犯罪も、少年犯罪は減っていますが、一般の犯罪は非常に増えています。
 イギリスのサッチャー元首相が実行した改革後のイギリスのように、いろんな問題が起きてきています。これが大きな社会問題にならないのは、雇用保険や生活保護、年金制度などがあるからだと思います。こういうものがある程度支えているから、まだ我慢をしていると思います。
 これからの民主党の課題は、そういうところへのセーフティーネットをしっかり用意していくことだと思っています。

森田 実 氏森 田 21世紀を迎えるにあたって私たちは、この20世紀を、もっと広く言えば産業革命以来の200年を歴史的にきちんと総括すべきだと思います。特に政治家や知識層やジャーナリズトはそのスタンスを強く意識すべきではないかと私は思っています。
 というのは、産業革命以来たしかに経済は発展してきましたが、その反面、大量殺人兵器をつくり、それを使って人類同士が殺し合う歴史でもありました。環境破壊という大きな負の面もあります。この100年について言えば、確かに多くの責任を共産主義に押しつけていますけれども、それ以上に人間を不幸にしてきたのは過剰競争主義です。アメリカ流資本主義に代表される「弱肉強食」の世界、つまり、勝者は善であり、弱者は敗れて当然という過剰競争主義が世界を混乱させてきたと思います。「パックス・アメリカーナ」の前はイギリスの過剰競争主義が世界を不幸にしてきました。
 このアングロサクソン流のただただ力にまかせて世界をリードするという生き方に戦後の日本は従順に従ってきたわけですが、この世紀の変わり目に、日本はそうした生き方を根本的に反省して出直しすべきではないかと私は思っています。特に日本の場合、1985年のプラザ合意がその象徴ですが、この20年、アメリカの極端な自由競争主義、弱肉強食主義に乗ったために日本の安定社会は崩され、日本国民は日本の経済力に見合うだけの幸せを享受できていない。貯蓄性向が高い日本人の国富の多くがアメリカに吸い取られてしまった。一言で言えば、政治や行政はアメリカにまず奉仕することを前提にして、日本国民のことは二の次になっていた。とんでもない錯乱した政治をやってきたのだと思います。
 バブル経済や平成大不況はその結果です。その影では地下組織といいますか、反社会的な集団の暗躍を許して、それが政治を動かすという「腐敗政治」をつくりあげてしまった。
これ正すのは政権交代しかありません、野党第一党の民主党が政権を奪取するしか道はないのです。
 民主党が自民党に代わって政権を奪取するためには、いま日本人はなぜこれほどまで自信を失い不安感を抱いているのか、その原因を探り、不安要因を取り除く必要がある。それは一言で言って、福祉や医療など将来への不安感だと思います。もうひとつは「腐敗問題」です。

横路さんは良識派の結集を

森 田 こうした課題を解決するための政権取りに向かうことが民主党の任務です。これらの課題を解決するためには、政治勢力を可能な限り結集し多数派を構築して、政権を取らなければならない。この新政権の力で以上の三課題を実現していくことが必要だと思います。
 ところが、この点について野党第一党の鳩山民主党党首は分かっていないどころか、まったく反対の言動をしている。ぶち壊そうとしている。最近、自民党タカ派の総帥である中曽根康弘氏は「参院選後に挙国一致の改憲内閣をつくろう」と提唱し、これにある大新聞の社長はじめいろいろな人間が賛意を表しているという動きがあります。これはとんでもない危険な動きです。このとんでもない危険な動きに民主党の鳩山代表が加担しているという情報すら流されているのです。
 そこまで愚かなことをしているとは思いませんが、そのように見られるようでは、とても政権交代に向かって次の国政選挙を闘えません。横路さんは民主党副代表という重鎮の地位におられますが、ここで横路さんたちが鳩山代表の一種の「狂気発言」に対して徹底的に批判しなければ、民主党は立ち行かなくなるのではないかと思います。どうか良識派を結集してください。
 
将来の不安を解消しなければならない

横 路 党内でも鳩山代表に対する厳しい批判が行われていますし、良識派の人々も外に向かって活動を始めています。私もそのために努力したいと決意致しております。
なぜいま経済が良くならないのかというと、それはやはり消費が拡大しないからです。消費が拡大しない理由というのは、いろいろあると思いますけども、最近見てみますと本当にアメリカ流の経営に変わってきています。バブル後のリストラのなかで、たとえば正規職員、正社員がグッと減って、非正規社員が27%に増えて雇用者の3分の1になっています。そしてパートや派遣労働が増えているのです。派遣労働は首都圏だけで100万人を越える勢いで増えています。
 ヨーロッパやアメリカの派遣社員の使い方というのは、正規社員が長期入院したりしたときの代わりに来てもらうので、数週間とか数カ月雇用なのです。しかし日本の場合は、完全に正社員の代替労働になっています。ですから派遣社員というのは20〜30代の女性が8割ぐらいですが、みんな正規社員になりたいと希望しています。いま雇用で何が問題かというと、パートや派遣労働が正規社員と差別されているということです。
 同じ仕事をして、同じ責任ある仕事をしても、正規社員との間に給料の差があって、8掛けとか6掛けとかという感じですね。しかも雇用保険などの保険適用も実態としてまだまだ不十分です。
 先ほど言いましたように失業者が310万人におり、仕事を求めることをもう諦めてしまったというのを入れると実に400万人もいるといわれています。この数字は、大体失業率でいうと10%ぐらいになります。
 こういう雇用情勢ですから収入も減り、必要なものの買い控えが起きています。
また公共事業をやって資金をいくら投入しても、経済はすでにサービス経済化していますから、ほとんど効き目がないわけです。
むしろ将来の不安をどう解消するかが大事です。雇用の安定と年金の安定、この2つがものすごく大事で、そういうことにみんな関心を持っているのです。
 雇用問題も年金問題も、クエスチョンタイムではそこが全然議論されないというようなことから、民主党の女性の支持率が非常に低い構造になっています。そこはやっぱり変えていかないといけないと思っています。

森 田 私は若いときに経済学系の編集者をやっていましたが、その当時からアメリカ帰りの経済学者が過剰に尊重される空気がありました。アメリカ帰りの何人かの経済学者と話し合ったことがありますが、みな「アメリカで勉強してきた経済学が世界経済を説明しうる一般理論であり、これで日本のこともすべて説明できる」という考え方の持ち主でした。
 若いときにアメリカに留学して、アメリカ人のような生活をして、業績を上げたあと、アメリカでの生活に限界を感じて日本に帰って来て、そしてアメリカでつくった名声をもとに生きているような学者が出てくるわけです。しかし日本のことはほとんど知らない。アメリカのことしか知らない。最近そういうアメリカ一辺倒の人が非常に増えました。マスコミで活躍している経済評論家も経済学者もあるいは官庁の人たちもほとんどがアメリカ一辺倒派です。その極端な例が株価重視です。株価本位制と言ってもいい。そして株価の1つの基礎である企業の採算性だけで日本の経済も説明しようとする。その結果、日本の実態経済は悪いのにもかかわらず、景気は回復過程にあるというようなとんでもない大錯覚が起こっている。
 実は日本にはまともな日本経済分析がなくなっているのではないでしょうか。日本の場合、一般の国民が株を大量に持っているわけではありませんから、貯蓄と消費と投資のバランスが重視されるべきです。ですから、中小・零細企業の実態、労働問題、失業率が日本経済分析の基礎でなければいけないのに、株本位制の議論をそのまま日本に適応して説明するものですから、日本経済の見方が歪んでいるのです。
この歪みの上で経済政策が議論されていますから、正しい経済政策は出てこないと思います。やはり日本経済の実態に根をおろした経済分析と、それに従った経済政策を立てることが重要だと思います。
 いま、国民の間には将来に対する不安が充満しています。私も将来に対する不安を解消することが最も重要だと思います。とくに大切なのは雇用をはじめ年金や医療などの社会保障に関する不安の解消だと思います。こうした将来に対する不安の解消にまったく手が着けられていないために、若い人たちは自己防衛のためにただひたすら貯蓄に走り、そしてその膨大な貯蓄は日本ではうまく運用されずにアメリカで運用されている。これはまさに異常事態です。
 将来に対する不安を解消するための政策を講じなければなりません。このためには、やはりこの20年間をきちんと総括しなければいけません。これはそのまま自民党政治の批判になります。自民党政権は本当にひどいことやってきた。日本をアメリカと同じような国にしようとしてやってきた結果がいまの惨状です。私は、橋本内閣の6大改革あるいは5大改革というのは犯罪的な政策だったと思っています。
 競争原理にもとづく自己責任社会をつくるためには多少の不公平や国民の犠牲が発生してもやむを得ない、それが自由主義経済の根本原則だなどという議論は、とんでもない大錯覚です。人間がより平等に、そしてより善良に生きていけるようにしていくのが政治の目的です。そういう観点を忘れて、ただただアメリカ的改革を実現すれば日本は良くなるというようなとんでもない錯覚に日本の政界は支配されてきたわけです。この先頭にいたのが中曽根康弘、橋本龍太郎らの元首相です。
 現在の財政政策、金融政策は極端すぎます。政府の政策にとって最も重要なバランスを忘れた経済政策です。いまの日本はあたかもたがが外れ、あたかもブレーキがきかずに暴走する自動車のようになっている。その結果、自民党政権は国民の信用をなくし、統治能力を失っているわけです。そのうえ官庁も自民党政治の暴走をチェックする力も責任感もなくなってしまっている。とてつもなくひどい政治・行政が日本にできあがっていると私は思います。

失われた日本的良さ…真の構造改革とは何か
横路孝弘
横 路 よく自己責任といいますけども、国民は別にお上に頼っているわけじゃありません。将来に対して心配だから自分で貯金している、これはまさに自己責任を果たしているわけです。堺屋経済企画庁長官がもっと金を使え、もっと金を使えといくら説教したって、雇用問題にしても年金問題にしてもそうですが、不安がある限りにおいては自己防衛しているわけです。国から叱られる理由は全くないと思います。
 確かにバブル崩壊後のリストラの10年を「失われた10年」とよく言いますけれども、それは改革すべきことを怠ったという意味なのですが、同時に日本的な良さも失ってしまった10年でもあると思います。
 先ほどの話でありましたが、アメリカ的な弱肉強食の考え方が入ってきたために、経済も社会もおかしくなってきたと思います。もともと日本の社会というのは、企業の株主だけを優先するのではなくて、従業員も大事にすれば社会も大事にするという資本主義でした。
 近江商人の家にはみんなそれぞれ家訓があるそうですが、その家訓のなかに「三方よし」という有名な家訓があります。それは、「売ってよし」、「買ってよし」、「世間よし」、これが商売だと言っています。つまり、売ることだけで良いというのではなくて、やっぱり買った人も良くなければならないし、売った人と買った人が良いだけではなくて、世間も良いというような商売でないとだめだという、極めて日本的な考え方ですけれども、本当にそうだと思います。ですから、従業員なども大事にしてきました。
それが最近のリストラのやり方を見ていると、学校のいじめを越えるようなことを世界的な日本の大企業までがやっている社会になってしまっています。人間同士のつながりとか、家族のなかのつながりまでも消えてしまって、金だけの社会になってしまったという気がします。
 前に検事をやり、今は弁護士をやっている堀田力さんが、「これで日本に暴動が起きないのが不思議だ。どうして学生は街頭に出て来ないのか、治安検事の立場からそんなこと思います」と言うぐらい、力がなくなってしまったということを彼は心配していました。

森 田 私は1998年度と1999年度の2年間、学習院大学法学部で講師を務めたのですが、合計1500通の学生のレポートを丁寧に読みました。多くの学生が次のような意味のことを書いていました。「戦後の日本はカネとモノだけを求めて走った社会だった。それがいま私たちが食うに困らないだけの社会をつくってくれた。親や祖父母の世代には感謝したい。しかし、社会の運営としてはカネとモノだけの追求では間違いだ。カネとモノの追求のために自然環境はどんどん破壊された。自然は大切にしなければならない。また、文化とか芸術とか、人間の生活を質的に豊かにする要素を重視されないといけない。あまりにも目標を単純化した社会運営から、複数の目的をもった社会運営に変えるために、われわれが頑張らないといけない」という意見が多かったですね。それにしてはいまの学生はちょっとおとなしすぎると思うのですが、論文だけを見るとそういう姿勢が顕著です。
 30〜40代を対象に意識調査をしますと、彼らが就職した80年代はアメリカ人たちが「21世紀は日本の時代だ」「日本はこれからどこまでも繁栄する」というあたかも“ほめ殺し”のような日本賛歌の本が売れていた時代ですから、みんな希望を持って就職しました。ところがバブルが崩壊して90年代に入ると、60歳定年まで勤めることもおぼつかない、いつリストラされるかわからないという状況になりました。たとえ運良く60歳まで勤めることができても年金をもらえるのは65歳。この5年間の空白を生きるためには、いまから貯蓄に励まなければならないということになります。同窓会でも最後はその話になって、貯蓄を誓いあって別れるようなことになっているようです。
 国民の大多数が極端な貯蓄志向に走ればモノは売れませんから、企業は成り立ちませんし、小売店も成り立ちませんし、バランスの悪い社会になります。それは、橋本内閣が日本経済の現状を見誤り、任期中の2年間に無理やり構造改革をやろうと突っ走った無謀さのツケです。政治家や権力者が間違うのは、選挙で勝たり、支持されたときに、自分は何でもできるものと思い込み、自分の短い任期中に大きな仕事を自分の業績として残したいと考えたときです。
 橋本内閣後に誕生した小渕内閣は、橋本内閣と正反対の政策をとりましたが、しかし、論理的な批判は何もしていません。つまり、自民党政権というのはまったく無論理、無原則のまま、この間、政治を運営してきたのです。
 今年3月に日本経済新聞で驚くべき記事を見ました。橋本元首相が同紙のインタビューに答えて“医療費の引き上げがどのような経済的影響をもたらすかの分析を経済企画庁が出さなかった。そのために問題が起こったのだ”という趣旨のことを言っていました。経済的にどのように影響を及ぼすかということも何ら分析せずに医療費引き上げに走ったこの無責任さは驚くべきことです。経済官庁の無責任さもひどいものだと思いますが、橋本内閣もひどいことをしました。この10年間、もっと言えば中曽根総理以来の18年間の自民党政治が日本をダメにした。その悪い政治のベクトルを止めないといけないですね。
 政治の原点は、みんなで平等に生きていくことが大事だということです。日本を弱肉強食社会に変えて、敗北者は路上生活者になっても仕方がないというような冷たい政治になってしまったことが、実は私は一番問題だと思うのです。1億2700万人みんなが完全平等になるのは無理でしょうが、できる限り多くの人たちがこの社会に生きて幸せだと思うような方向で政治をやるべきなのに、80年代以後の自民党政治はその正反対の方向で行われてきた。ここ数年間の自民党政治は特にひどいと思います。
われわれが目指すべきは、いままでの間違った構造改革ではない、日本人がもっと安心して生きていけるような社会経済構造に向かっての改革でなければならないと思うのです。真の構造改革と何か、この点について英知を結集し、論議を深めなければなりませんね。
 
民主党政権による腐敗政治の転換を

横 路 いま日本で市場主義が自由化されても動いていかないのは、市場に対する信頼感や安心感が国民にないからです。社会に対する信頼や安心できるシステムがないかぎり、経済のシステムを含めてですけれども、国民は自分を守るための行動に走ります。
経済がうまくいって、お金が動いて回っていくということにはならないのだろうと思いますし、金融の持っている不良債権も検査すればするほどぞくぞく出てくるような今の状況で、本当にバブルのときに、いったい何をやったのか。100億円以上の債券放棄してもらった企業が3千社以上あるという話聞きましたけれども、銀行の方も責任を取ったわけではありません。結局、今までの自民党政治の構造そのものを変えるとすれば、そこをしっかり変える政権の受け皿づくりをしないといけないわけです。
 自民党と交代したけれども同じでは困りますので、いま本当にわれわれ民主党にとっては大変大事な所にきていると思っています。

森 田 私は、自民党政治は終焉期を迎えた、戦後の日本政治をリードしてきたシステムの終わりが始まったとみています。
 私は、1994年1月に、朝から晩までテレビで解散総選挙をすべきだと言い続けていました。しかし細川内閣は、結局、与党をはじめ野党の自民党総裁や幹事長から泣きつかれてその決断ができなかった。この失敗は本当にかえすがえす残念です。もしも近い将来、民主党が政権の中枢に座ったときには、ただちに国会を解散し、国民の信を求めるべきです。
 おそらく民主党は勝つでしょう。政策だけで政権交代という議論が政治家やジャーナリズムの間には非常に多いのですが、自民党は政権維持のためには野党の政策を丸呑みすることも構いません。いわゆる55年体制のもとでも自民党は社会党の提起した政策をどんどん取り入れて政権を維持していた。自民党には政策についての無原則さがあるのです。
ですから、政策的対決だけでは勝負にならないのです。日本は残念なことにそれほど論理的に潔癖な社会ではありません。大切なのは政治浄化です。腐敗政治を断つには政権交代しかないのです。
 実は腐敗政治こそが日本の最大の弱点です。政策が変に捻じ曲げられるのも、腐敗政治の温存のためです。私は、野党第一党の民主党はこの政治腐敗の問題をもっと重視して、国民にこんな腐敗した政権では日本はダメになるともっともっと強く訴えるべきだと想います。率直に言って、マスコミはある時期から堕落し、政治腐敗追及が鈍りました。それはそれで大きな問題なのですが、ともかく構造腐敗を断つには政権交代、すなわち民主党が中心に座る新しい政権をつくるしか道がないと思うのです。

横 路 それはおっしゃる通りです。やはり政権交代がなければ、今の日本の政治を変えることはできません。今回の「加藤問題」でも、政権奪取という決意も何を行うかという具体的な政策もなかったところに、闘わずして敗北した原因があります。そして、政権交代はやはり、選挙を通じて実現すべきです。
民主党も正念場を迎えています。大事なときですので頑張ってまいりたいと思います。

森 田 今回の加藤紘一氏による騒動の顛末は、国民の間に政治に対する深い絶望感を残してしまいました。一時は、国民は加藤氏の決起が日本の政治の暗い閉塞状況を変えてくれるのではないかと期待しましたが、加藤氏の腰砕けによってこの期待はあっさりと裏切られてしまいました。多くの国民は加藤氏の弱さにあきれてしまいました。国民の政治不信、政治家不信は深刻です。
 加藤氏の政治生命は深刻な危機にさらされましたが、同時に自民党は近い将来の首相候補を潰してしまいました。自民党の人材不足は目を覆うばかりです。政治の閉塞状況を打破する力はもはや自民党の内部にはありません。
 加藤騒動の挫折で野党の出番がきました。野党が頑張らなければダメです。私は国民生活、政治浄化、日米関係見直しの三つの緊急政策で民主党、自由党、社民党の野党3党が合意し、そのための反自民連立政権をつくるために野党協力体制をつくり、2001年夏の参院選に臨んでほしいと思います。参院選ですから首相候補は必要ないのですが、もしも衆参同日選挙になるようなら、首相候補としてたとえば羽田さんのような人を立てるのも一策だと思います。
 しかし鳩山さんではダメです。野党連合は「集団的自衛権の容認」ではなく「憲法9条を改正しない」ことを国民に公約すべきだからです。反自民連合の中心勢力が民主党です。
民主党は一日も早く「鳩山改憲発言癖」を克服するための措置をとるべきだと思います。鳩山氏を自己批判させるか、自己批判しないならば辞めさせなければならないのです。これができてはじめて野党結集が可能になると思います。重ねて強調しますが、「憲法9条改正・集団的自衛権容認」は民主党の自殺行為になります。