民主党はどうあるべきか

毎日新聞2001年9月11日夕刊付 特集ワイドインタビューより
横路 孝弘


 臨時国会を前にしながらも、民主党が自らの存在を誇示できずにいる。現憲法の是非だけでなく、“議員政党”を目指すのか、地域組織を重視するか、政党の基本部分で党内のコンセンサスができていない。小泉改革では、自民党内の族議員と並んで、民主党内の労組系議員も「抵抗勢力」に数えられようとしている。旧社会党系のリーダー、横路孝弘副代表に胸の内を聞いた。【松田喬和】


――民主党は人事を一部手直しして再出発することになった。旧社会党系議員は冷遇されている。
◆森喜朗前首相が失敗した最大の理由は、中川(秀直)さんを官房長官にしたことだ。イエスマンだったからだ。中曽根康弘政権がなぜ長期政権だったかというと、後藤田正晴さんを官房長官に起用したことが大きな要因だ。リーダーのまわりにイエスマンだけを置いたら絶対だめだ。私も北海道知事として一番苦労したのは人事だった。
 政党の代表はオーケストラの指揮者だ。みんなをまとめてその個性を引き出すことが重要だ。また、政策も思いつきではなく、国民のニーズに対応した形でタイムリーに提示しなくてはならない。代表がそれができるかどうかは、周囲に感度のよい、さまざまなタイプの人間がいるかどうかにかかっている。

――そうすると鳩山由紀夫代表も菅直人幹事長もリーダーにはふさわしくないと?
◆そうとはいわない(笑)。経験すれば気付いていくでしょう。

――鳩山代表への注文は?
◆今まで議論してきた党のスタンスを踏まえてほしい。それからぶれないことだ。地域に入っていろいろな人の話を聞き、生活を知るべきだ。

――どんなスタンスがふさわしいと考えますか
◆米国の共和党と民主党、ヨーロッパ諸国での保守党と社民党は、それぞれ対抗軸が明確だ。前者は市場にウエートを置き、市場主義原理を社会にも広げ、できるだけ小さな政府で自己責任が基本だ。後者は経済は自由主義・競争主義でも、社会は公正・公平でなければいけないという考え方だ。例えば、財政黒字の時、それを減税に回すのか、社会保障に回すのかで議論が起こるような違いだ。日本はこの種の対抗軸と議論が不十分で、それは民主党の責任だ。

――55年体制下の自民党から社会党までの人が集まった民主党では、スタンスが定めにくいのではないか。
◆幅の広い政党でないと政権政党にはなれない。問題は、自民党に代わって政権の受け皿になるということの意味が分かっていないことだ。民主党の主張が、幅広い自民党と一部と重なるのはいいが、丸々納まるようなら自民党の中でやればいいということになる。

――民主党の支持率の特徴は、選挙前になると急に上がる点だ。投票を前に「次善の策」として選択されているに過ぎないのではないか。
◆今の民主党には国民政党にふさわしい幅の広さがない。市場主義だけが突出し、管理職などの強い層に支持は伸びているが、女性などの層には伸びていない。右のウイングには強いが、左のウイングには弱い。そこが大きな問題だ。左ウイングの層は「意識的無党派層」で政治や経済に幅広い関心を持っている。この層をカバーするよう党のウイングを広げるべきだ。

――その点については横路さんら旧社会党系メンバーがもっと努力すべきではないか。
◆そのつもりです。これからは私もいろいろ外の運動を広げていきたい。地域の中で個々の議員がやっている活動をもっと国民の中に定着させたい。

――社民党との競合は?
 ◆社民党はドイツの「緑の党」のような存在として生き残っていくのではないだろうか。

――小泉改革については?
◆民主党が考える抜本的構造改革の基本は、国と地方の関係を大きく変え、中央集権的な国の形から、権限も財源も地方に移し、国の政策を狭い範囲に限定することが出発点だ。小泉改革は地方分権や公共事業、道路特定財源、特殊法人などの改革はあいまいになりつつある。一方、社会保障や教育、雇用面では競争原理の名のもとに、国と企業の負担を軽減しようとしている。しかし、競争原理を導入することで解決するものは何もない。

――ではどうしますか?
◆今必要なのは、例えば警察や消防と同じように国民が安心して社会生活ができる基盤、すなわち「安心の給付」だ。安心の給付がきちんとあるという信頼感がなければ、市場が自由でも、企業は投資しないし、国民も金を消費しない。従って、教育や社会保障などは公的セクターが中心になって、それに市民セクターや民間セクターがネットワークを組み、役割を分担することが必要だ。民主党はもともと「安心の給付」と経済活性化、景気対策と構造改革の二兎を追わなければならないと主張してきた。

――高度成長の中では有効だった「国土の均衡ある発展」という考え方を改めないと、構造改革はできないのではないか。
◆そもそもGDP(国内総生産)信仰をやめないといけない。90年代に日本のGDPは400兆円から500兆円に増えたが、豊かになったという実感は全くない。GDPは、穴を掘ってまた埋めるだけでもプラスになる。この間に失業や倒産、犯罪、自殺、ホームレスの数は最悪の状態になった。こうした指標こそ、社会を評価するポイントだ。「失われた10年」で日本は「正義」「平等」「倫理」といったものを失った。

――構造改革を阻止する「守旧派」は、自民党だと族議員、民主党だと労組出身議員と受け取られている。先の参院選でも、自民党の組織候補トップ当選は郵政省OBだった。民主党でも一番善戦したのは全逓出身候補だった。郵政民営化反対で労使一体で組織防衛に努めた結果ではないか。
◆郵政省という行政組織と労働組合を一緒に考えることは無理でしょう。重要なのは、労組と関係を絶つことではなく、労組とのしっかりしたコミュニケーションを作るとともに、労組以外のいろいろな団体ともネットワークを組むことだ。その際、議員中心の政党にするのか、地域を中心とした組織を作るのかが問題となる。北海道は党員6000人、自治体議員は450人だ。これでもまだ議員中心だから、もっと地域に根差さなければならない。

――憲法問題でも民主党内はまとまりません。
◆憲法問題は当面扱わなければならないテーマではないし、私は憲法前文や9条を改正することに賛成できない。
憲法を変えないとできないことは、「首相公選制」と「集団的自衛権の行使」だ。しかし、首相公選制は、憲法調査会がイスラエルに行ったところ、「やめた方がいい」と忠告されたし、小泉人気で逆に心配だという意見も出ている。集団的自衛権の行使については、現在2カ国や数カ国で対処しなくてはならない紛争は減っている。国連中心でどうやっていくかを議論したほうが前向きだ。
 ただ憲法改正が具体的な政治の場面に出てきた時、党の意見をまとめるのは大変だ。

――護憲の先に何があるのか、それが見えない。
◆改憲の先には、軍事のウエートが非常に高い国家があることははっきりしている。民主党はしっかり、国家主義への流れと市場万能主義に歯止めをかけないといけない。

――横路さんと同時期に知事をしていた細川護煕元首相や武村正義元官房長官は政界を引退したが、横路さんは還暦を迎えたばかり。「ニュー横路」として、来年の党首選に立候補しませんか?
◆来年の話をすると鬼が笑うというでしょう。ただ民主党は自由党でもないし社民党でもない。そして自民党に代わり得る政権政党として、真の国民政党になるために、私もがんばります。

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