講    演
「新ガイドライン」について
衆議院議員 横路 孝弘
1999.6.7


 皆さん、どうもお晩でございます。今日はお招きいただきましてありがとうございました。
 今回のガイドラインならびにその関連法というのは極めて巧みに出来ていまして、ガイドラインというのは、皆様のお手元にある資料の10ページからですが、これは元々本文が英文なのです。それを訳したのがこのガイドラインでございます。訳すときも相当な意識的誤訳が行われています。
 ところで、このガイドラインは3つの構成になっています。まず、日米が平素からどういう協力をするかというものです。平素から日本の防衛や国際的な安全保障環境をつくっていくために情報交換や政策協議をしていくということ。それから同時に、日本有事や周辺事態のための準備を今からやっておきましょうということで、包括的メカニズム、調整メカニズムという中で、防衛庁だけではなくて全省庁が一体になって、日本有事に際しての日米共同作戦計画、周辺事態に際しての相互協力計画についてのシナリオをちゃんとつくりましょうと。そして、一緒にやっていくための情報収集活動をどうしたらいいのか、共同作戦をする場合の実施要領をどうするか。そういうことを平素からの協力ということで行いますよというのがまずひとつです。
 もうひとつは周辺事態という新しい概念をつくったこと。国会審議ではどこの地域のどんな事態なのかということが一番の議論のポイントでございましたが、結局政府は具体的に説明しませんでした。そのよくわからない事態のために米軍が行動する。それに日本が協力するというのが周辺事態法です。
 それからさらに日本有事の場合にどうするかという、3つの内容がこのガイドラインの主な柱になっています。ガイドラインというのは日米政府間の約束事でして、その後これは日本の閣議で了承されています。私ども民主党はこのガイドラインの中身は実質的に憲法に触れ、あるいは安保条約も改訂しなければいけない内容だから、ガイドラインそのものを国会にかけるべきだと主張しましたけれども、政府は受け入れませんでした。そして、この中から1つ2つだけ取り出したのが今度の法律なのです。
 どういう点を取り出したかというと、周辺事態についての『後方地域支援活動』、それから『捜索救難活動』、『船舶検査活動』です。船舶検査活動は最後には条文から削除しましたので、結局この2つの活動と自治体・民間協力というものを含めた周辺事態法というものをつくったのです。
 問題なのは、国会で周辺事態法案を廃案にしても、ガイドラインは政府間の約束事ですから、ガイドライン自体は関係なく続いてしまう点です。つまり、日米の軍事的な協力、枠組みそのものは国会のチェックを受けない。周辺事態に対する制限もなしに動いてしまうというところに非常に問題がある。ですから私ども民主党は修正を主張しました。私も廃案よりは修正の方が正しいと思っています。というのは、周辺事態法案が廃案になって出来なくなるのは後方地域支援活動の一部と捜索救難活動くらいです。これは法的な根拠が薄いといういうことで、周辺事態法はその根拠をつくるためのものですから、この2つはできなくなると思います。
 しかし、それ以外の活動は行なわれます。自治体や民間に対する協力要請も、この法律あるなしに関わらず可能というのが政府の見解です。その他にも機雷の掃海や、対潜哨戒活動というような活動は出来るというのが政府の見解です。そうしますと、ただ法案を潰してしまったのでは国会が関与するところが全くなくなってしまう。周辺事態に対するチェックが何も出来なくなってしまうということでございまして、このガイドラインと周辺事態法が巧みに出来ているということを申し上げたのは、実はそういう意味でございまして、今日はそのことを皆さんにお話したいと思っております。
 それでは資料5ページに戻っていただきたいと思いますが、もう皆さんはご存じのことと思いますが、安保条約の5条と6条、5条は日本有事についてで、日本の国土が攻撃されたときにアメリカは支援しますよということです。
 ちなみに在日米軍には日本を防衛する能力のある部隊はほとんどありません。外に向かって攻撃する能力を持っている部隊がほとんどで、防衛任務は日本の自衛隊。しかし何かあったときには協力しますよということで、たとえば三沢基地所属のF−15は、ソ連が仮想敵国の時代にはソ連の空軍基地を攻撃したりする能力を持っていたのです。
 第6条では、その代わりアメリカに対して、極東の平和と安全のために日本は米軍に基地を提供することが記されています。施設区域を提供しますということで横田基地や、岩国、横須賀、佐世保、あるいは沖縄などの基地の提供と、それから地位協定では、民間空港や港でも、日米合同委員会で合意したところについては米軍が使って良いということになっているわけです。
 これが今回のガイドラインでどう変わったかというと、まず地域が拡大したという点でございます。つまり『極東範囲』から『アジア太平洋地域』に広がったのです。政府は、周辺事態というのは事態の性質に着目した概念であって地域は関係ないと言って、広がったとは認めていませんが、実は広げたのです。極東の範囲というのはどこなのかというと、フィリピン以北日本の周辺ということで、台湾も入り、韓国も入っていました。しかし、中国は入らず、北朝鮮は入っていなかったのです。というのは当時は東西冷戦のときですから、東側の陣営が西側に攻撃をかけてきたときにアメリカ軍はその防衛のために出動するということですから、東西がはっきり分かれていたのです。
 それから1960年当時は台湾が国連加盟国でしたが、その後、中国が国連に加盟する。そして日中が国交回復をして、台湾は中華人民共和国の領土の一部であることを日本政府も認めます。従って台湾は中国の国内問題であると日本政府は認めました。アメリカも中国はひとつであると認めるようになるのですが、しかしアメリカは議会で台湾国内法というのをつくりまして、台湾の安全が脅かされたときにはアメリカは台湾を応援しますよということにしました。
 今回はどうなっているかというと、そこを曖昧にしているのです。曖昧にしていますが、このガイドラインはともかく2つのこと、朝鮮半島、そして台湾海峡を想定していると受けとめていただきたいと思います。範囲について政府は「インドは入らない、中東は入らない」と言っていますが、インドネシアは入らないという答弁を小渕総理が撤回してそのままになっていますから、インドネシアからマラッカ海峡、南沙諸島というあたりで何か問題が起きたときには米軍が行動し、自衛隊が協力するという可能性は充分あると考えて良いだろうと思います。
 このガイドラインの基本になったのは、やはり米ソ冷戦の崩壊なのです。崩壊したということは日米安保の仮想敵国がなくなったということです。そこで軍縮が必要だという議論が細川政権のときに起きました。これにアメリカのペンタゴンや日本の自衛隊、外務省が危機感をもって「米ソ冷戦は崩壊したけれども、まだまだアジア太平洋地域には不安定要素があるから、日米はこれからも安定的なアジア太平洋地域の平和と安全のために協力をしていかなくてはいけない」という方針を出しました。これは残念ながら村山内閣時の防衛問題懇談会の答申で、これがベースとなってその後の防衛大綱、そしてクリントン・橋本日米共同声明という形になり、このガイドラインに到達したのであります。
 それからもう1つは双務性が非常に強くなったということです。よく日米安保は片務的だと言いますが、私はそうは思いません。日本は基地を提供し、なおかつ6200億円近いお金も出しているわけでありますし、アメリカはそれで物凄い恩恵を受けているわけですから、この日米安保条約が片務的だという論拠は何もない。まさに双務的だと思いますが、これからは行動の面でも双務的になったということが言えるわけです。それはいまお話しがあったように、日本の自衛隊の基本の枠組みが変わったといっていいだろうと思います。それは専守防衛という点であります。
 専守防衛の基本は何かと言いますと、日本の自衛隊は日本を守るための軍隊なのですから、日本が直接攻撃されて初めて自衛権が発動される『自衛権発動の3要件』といわれるものです。@国土が直接攻撃を受けて、A他に方法がないときに、B必要最小限度の軍事力を行使するというのが自衛権発動の3要件です。一番大きな要素は、日本の国土が攻撃されたときというのが大変大事な要件であります。それを日本の自衛隊は専守防衛だと言ってきたわけです。
 ところが今回はどうなったかと言いますと、日本の自衛隊は日本の国を守るということを超えて、アジアの地域の紛争に出向く米軍に協力するという形をとって介入することに拡大したのでありまして、そこはまさに周辺事態という、訳の分からない一番大きな要素なのです。
 米軍が行動するケースというのは過去にたくさんあります。今度のNATOのユーゴに対する空爆も、別に米軍の自衛権が発動されているわけではありませんし、安保理事会で決議があったわけでもありません。今回は、ユーゴのミロシェビッチ大統領を中心とするユーゴ部隊の手で民族浄化が行なわれている、だから人道的支援をするのだという形で軍事介入をしたわけです。人道的支援という名の軍事介入は、ここ最近でもいくつかケースがあり、最大の口実になるのです。これなら何にでも軍事介入が出来ますから、いま中国は日米ガイドラインに猛反対しています。たとえばチベットで何か起きたときに「介入される余地があるのではないか」。台湾で何かあったときは中国の国内問題ですから内戦、あるいは内乱ということになり、外国が介入することではありません。ところがこれも介入する根拠になるのではないかということで、中国はこのガイドラインに対して非常に大きな警戒感をもっています。米軍の過去の行動が気になるからです。
 各国が軍事的な行動をするパターンというのはいくつかあります。ひとつは、ある国の行為が国連の安保理事会によって侵略行為であると決定されて、国連憲章に基づいて国際平和の回復に必要な国連の軍事的な強制措置をとる。アメリカがそれをやってほしいと、決議に基づいてやるような場合があります。
 朝鮮戦争はこのパターンです。それから湾岸戦争もそうです。イラクの行為が国連安保理事会で侵略行為であると決定されて、米軍が多国籍軍の一員として国連決議を受けて行動するという場合があります。
 それから、国連では常任理事国の拒否権によって行動ができない場合に、総会を開いて平和のための結集決議という形で、決議して米軍が行動する場合もあります。
 また、アメリカに対する武力攻撃が発生して、アメリカが自国の自衛権を主張して行使する場合があります。
 もうひとつは、アメリカと密接な関係にある国が、たとえば日本が攻撃を受けたということで米軍が行動する、あるいは韓国が攻撃を受けたということで米軍が行動する。韓国とは米韓条約があるので、そういう行動が出来ます。これは集団的自衛権によるものです。これらの米軍の行動は比較的はっきりしています。国際法的に一応認められるというか、そういう範疇に入ってくるのです。
 ところが、怪しげな行為というのが2つあります。ひとつはアメリカがよく使う方法ですが、アメリカ国民を保護するという名目で武力行使をするケースです。この場合、救出のみのケースと、その地域に駐留するケースがありまして、アメリカは過去に中南米で随分この方法を用いています。かなり怪しげなものもありまして、パナマのノリエガ将軍を捕まえようとしたときは、麻薬がパナマからアメリカに流入することはアメリカ国民の平和を侵すとして自衛権を主張し、パナマに海兵隊を送り込んで、ノリエガ将軍を捕まえてアメリカに連れて帰り、刑務所にぶち込みました。ノリエガが麻薬の黒幕であったことは事実ですけれども、このアメリカの行動はあまりにも国際法を無視したのではないかということで、国連総会では非難決議が可決されました。このように国民保護という名の下に米軍が行動するケースはたくさんあります。
 もちろん日本の場合も邦人救出で自衛隊が動くということは今では認められていますけれども、その場合には相手国の同意が必要です。しかしアメリカは相手国の同意があろうとなかろうと入っていきます。
 それからもうひとつは、人権侵害が行われているというときに、国連が授権して行動する場合と、今回初めて国連が授権しないで行動した場合があります。これは、たとえばツチ族とフツ族が争ったルアンダのケースでは、フランスが国連の安保理事会の決議を受けて、フランス軍を国連軍として行動しました。こういうケースはソマリアでの紛争などいくつかありまして、残虐な行為が行われていたり、非人道的な行為が行われているときに、それを止めるためのケースです。伝統的な国際法の考え方で言いますと、いわゆる内政不干渉という原則があります。ある国の中で起きた問題は、その国の中に留まる限り、外国はそれに介入してはならないということです。ところがルアンダのケースを含めまして、周辺国に影響が出る、難民が出てくる、その難民に攻撃する部隊が出てくる、あるいは内部の行為であっても今回のコソボの場合はミロシェビッチによる残虐な民族浄化運動がある、というようなことを理由にして軍事行動しました。実はユーゴにはコソボ解放戦線という武装組織がありまして、アメリカは2〜3年ほど前までは「この組織はテロ集団だ」といって批判していたのです。アメリカの批判に勇気づけられて、ユーゴスラビアはコソボ解放戦線に対して武力行使に乗り出しました。ですから、アメリカの国益というのはその時々によって変わりますから、今回の場合は一体何がアメリカの国益に係わるのか、アメリカ国内でも議論があるようなですが、そういった事態で軍事力を行使するという危険性が非常にあります。そのことを前提にして、周辺事態というのはどういう事態なのか、政府が答弁した6つのケースがあります。
 朝鮮半島を頭において考えると、まず武力紛争です。A国とB国が武力紛争、つまり戦争が起きた場合、そして起きそうな場合、それから紛争は終わったけれども、まだ不安定な状況にあるという場合、これで3つです。それからある国の内部の問題で、政治的な混乱が起きて難民が発生したという場合。また内戦や内乱で、これは台湾を想定したものですが、ある国の中で内戦や内乱が起きて、それが外国にも拡大した場合に、アメリカがこれに支援すればそれに当てはまる。これで5つですね。それからもうひとつ、国連の安保理事会の決議によって経済的制裁をかせられた場合ということで、これはたとえば1994年、北朝鮮がその前年に核拡散防止条約から離脱することを宣言して、アメリカとの間にトラブルが起きました。このときにアメリカや日本政府が考えたことは、まず国連で経済制裁を決議することでした。
 経済制裁には、ただ制裁を行う場合と、封鎖目的で船を臨検するケースと両方あります。国連が経済制裁を最初に行ったのは南アフリカに対してで、いわゆるアパルトヘイト政策に抗議する意味で行なったものです。その後、5つ、6つ経済制裁を行っていますが、その後はだいたい経済封鎖を伴っておりまして、臨検も行うケースが出てきています。
 そうすると6つのケースのうち、5つは朝鮮半島を想定したもの。あと1つは台湾が独立宣言をして、中国は台湾が独立したら武力行使すると言っていますから、武力紛争になります。そうすると台湾は中国の一部なわけですから、これは内戦や内乱になるというケースです。このように、政府の答弁はだいたい北朝鮮と台湾を想定したようになっているわけです。
 北朝鮮は今でさえ餓死者を出しているわけです。人口のほぼ1割の人が餓死したと言われています。そんな意味ではひどい国だと思いますが、アメリカはそれを理由にして、これは大変だといって軍事力で乗り出したり、またKEDOという米朝合意に基づいて北朝鮮に原子力発電所を建設しようとしています。これにはアメリカの技術者や韓国の労働者も行っています。そうすると北朝鮮の中で、たとえばどこかの部隊が反乱して混乱が起きたというときに、今までの米軍の行動からすれば、アメリカ国民を守ろうといって海兵隊を送り込むという可能性はあるわけです。そういうときに今度のガイドラインと周辺事態法でいいますと、日本の自衛隊が協力するという話になってしまうのです。また、台湾が独立宣言をして中国が武力行使をしたときに、台湾を助けるという意味で米軍がそれに参加すれば、日本は主体的に周辺事態を認定するといっても、枠組みはだいたいアメリカ主導の枠組みになっていますから、その戦争に参加することになるわけです。だから今度のガイドラインというのは、ともかく日本が戦争に参加する、そういう危険性と可能性をもったものなのです。ガイドラインそのものがそういう構造を持っていると言わなければならないのです。
 しかし、政府はもちろん国の名前は挙げていません。日本の周辺国で、日本の平和と安全に対して重大な影響を与えるような事態、それが周辺事態なのだと言っています。つまり日本が直接攻撃された事態ではないのです。今までは、朝鮮半島でどんな紛争が起きても、韓国と北朝鮮が戦争している場合でも、日本に弾が飛んでくるということでなければ、日本の自衛権というのは発動されなかった。台湾で何が起きようとも、そこから弾が日本に飛んでくるということならば自衛権が発動されるけれども、そうではない。そうではない事態は周辺事態から削除しようではないかというのが私たちの考え方で、「そのまま放置すれば日本が攻撃を受ける、そういう恐れがある事態」を周辺事態というようにした修正案をつくりました。
 自由党の修正案は私どものと表現は似ていますが全く違いまして、その周辺事態の例示として日本に対する攻撃の恐れという6つのケースにもう1つ付け加えて、そのもう1つを法律の頭にしただけの話ですから、例示を増やしただけのことで何の限定にもなっていないのです。私どもは周辺事態法の周辺事態とは何かというところに、「周辺事態というのは日本の平和と安全に対して重大な影響を与える事態であって、そのまま放置すれば日本が攻撃される恐れのある事態」というようにして、日本にとって第三国の内部問題、あるいは第三国と第四国の間の紛争には日本の自衛隊は関わらないという修正案をつくりました。この意味は非常に大きいものがあると思います。
 それでは次に、周辺事態法における後方地域支援活動と捜索救難活動についてです。この2つは今度の法律が通らないと、特に後方地域支援活動の中のある部分は出来なくなるということを先程申し上げました。では一体、何が出来て何が出来ないのかということを18ページのところからちょっと広げて見ていただきたいと思います。
 アメリカが日本に一番期待しているのは何かと言いますと、資料20ページの一番下にあります『運用面における日米協力』です。警戒監視、情報の交換、機雷の除去並びに機雷に関する情報の交換とあります。それから海・空域調整とあります。これらを「運用面における日米協力」と掲げてありますが、英文をそのまま訳しますと「日米共同作戦」というように訳すのが正しいとほとんどの専門家は指摘しています。実はこの警戒監視と機雷除去というのが、アメリカが日本に一番期待している能力なのです。これは海上自衛隊の能力なのですが、日本の海上自衛隊は米ソ冷戦時代から米海軍と密接な役割分担をしてきました。もう30年以上いろんな訓練をやってきています。それはなぜかと言いますと、米ソの対立抗争において軍事的最大要素は核の対決だったからです。
 米ソの核戦略は、ひとつはICBMという大陸間弾道ミサイル、それからB−52などの爆撃機、それからSLBMという潜水艦です。米ソというのは北極を真ん中に挟んで対立している。そしてアメリカもソ連も同じ核戦略をもっていました。それは、もし先制攻撃を受けたら報復をする、その報復力を持つことによって先制攻撃を抑止しようという考え方なのです。お互い相手国の大陸間弾道ミサイルがどこにあるかわかっています。冷戦が終わった後の話ですと、みんな目標地は決められていたようです。ワシントンだとか、あるいはモスクワだとか、どこの基地だとかというようにミサイルの標的は決まっていたようです。
 もうひとつは飛行機です。もしアメリカのコロラドにある総司令部が、ソ連がアメリカに攻撃をしてきたと認めれば、すぐ米軍の爆撃機は核を積んで飛び立ち、攻撃するのです。これも目標が決められています。飛行機はミサイル等で迎撃される可能性がありますが、報復力のひとつとして爆撃機というのは今でもアメリカで大きなウエイトを占めています。
 そして、相手に知られないで一番報復力を行使できるのは潜水艦です。海の中だからどこにいるのかよくわからない。従って潜水艦がいわば最後の報復力なわけです。米ソがどこの海を舞台に猛烈な戦いをしていたかと言いますと、オホーツク海から北太平洋がひとつの地域です。もうひとつはバレンツ海という北方の海です。このオホーツク海、日本海にウラジオストクの基地があり、ペトロハバロフスクというところに海軍基地があり艦艇や潜水艦が出入りしていた。この潜水艦を発見するのが日本の海上自衛隊に与えられた大きな任務だったわけです。
 あともうひとつはシーレーン防衛です。潜水艦を発見するための飛行機はP3Cという対潜哨戒機でして、日本は現在100機保有しています。90機が実戦配備、10機は予備となっています。これだけのP3Cを持っている国は世界でもないのです。それだけ日本は潜水艦を発見する能力を持っているのです。
 それから機雷を掃海する能力についてです。今になってだんだん明らかになってきた話ですが、朝鮮戦争のときには海上保安庁も含めて朝鮮半島の海域で機雷掃海をしたり、輸送任務などをやっていたと言われていますが、機雷の掃海は日本の最大のパワーなのです。
 いまは平時ですが、P3Cは日本海を中心に常時飛んでいます。対象は完全に北朝鮮の潜水艦です。アメリカは空母や艦艇から攻撃を行ないます。艦艇は相当遠くから攻撃できまして、トマホークというミサイルは1発1億2千万円しますけれども、2千kmくらい飛ばして誤差はほとんどないほど誘導装置が優れているのです。カーナビゲーションがありますよね、あれはアメリカの軍事技術の初歩的部分を転用したものですが、軍事衛星とコンピューターで地形を探りながら目標に到達するわけです。2千km飛ばして誤差がほとんどない。命中度が非常に高いのです。ですから、飛行機から爆弾を落とす攻撃では誤爆があるかもしれませんが、トマホークでは考えられません。NATOのユーゴ空爆による中国大使館の攻撃は誤爆だったと報道されていますが、たぶん中国大使館とわかって攻撃したのではないかと言われています。これは事実かどうかわかりませんけれども、あそこには中国の新華社通信の放送施設がありまして、ユーゴ国内の放送施設が破壊されていたので、ユーゴ政府が新華社通信の放送設備を使って国内放送をしていたのではないかと言われているのです。したがってアメリカも中国もそこは触れていませんけれども、中国大使館と知っていて攻撃したのだ。中国の国旗も立っているわけですし、周囲に間違えるような建物があるところではありませんから、そういって中国は今も怒っています、あれは誤爆ではないと、狙ってやったのだと。攻撃はクリントンが直接命じたのではなく、前線の指揮官がやったのではないかと言われておりますが、本当のところはわかりません。
 空母を展開するときに、P3Cで敵の潜水艦がいないか監視して周囲何百kmの安全を確保するのです。アメリカという国は何をやるにしても徹底的に準備します。後方支援活動もしっかり準備して初めて実行に移るのです。
 また、空母での離発着で飛行機がたまに失敗して落ちたりすることがありますから、そのための支援体制を組んでいます。そういう機雷掃海や支援が海上自衛隊の任務になるわけです。昔と違って海兵隊が上陸作戦を行うときに、今ではいろんな機雷が開発されていますので、それをまず掃海するということです。
 それからAWACS767という飛行機も配備しています。これは早期警戒管制機といって、500km四方で飛んでいる数百もの飛行機を瞬時にして敵味方に識別できるという能力をもった飛行機なのです。そのデータはアメリカのイージス艦に瞬時に伝えられます。日本の海上自衛隊も持っています。イージス艦というのは、飛んでくる敵の飛行機に対して一斉にミサイル攻撃ができるシステムをもっています。このように日本のP3C、AWACSからアメリカのイージス艦に瞬時にリアルタイムで情報が伝わるようになっているのです。先程の文章では情報の交換と書いてありました。情報の交換と言っても、P3CやAWACSが「敵の潜水艦や飛行機を発見した」という情報をイージス艦に伝えれば、イージス艦は即座にボタンを押すだけで、その潜水艦や飛行機にミサイルを発射できるわけです。情報の交換といっても戦闘状態にある中でやるわけですから、もう全くの共同行動だと言っていいわけです。これが大変問題のところであり、情報の交換という意味では間違いありませんが、しかしそれは戦闘行動のための情報提供ということになるわけです。こういった警戒監視と機雷の除去というのがアメリカが一番期待をしているものであります。
 もうひとつ、捜索救難活動についてです。これは18ページのところになります。捜索・救難とありまして、たぶんこれは周辺事態法が通らなければできないことだと思いますが、戦闘地域にかなり近づいて、アメリカの飛行機が撃墜されたという場合に救助を行なうものです。
 問題は、そういう行動は相手からはどのように見えるかといいますと、それは完全に共同行動ですよね。もちろん昔と違って、今は列を組んで一緒に行動するのではありません。200kmや300km離れて行動するわけですが、情報は瞬時にリアルタイムで伝わり、それに基づいて対応措置がすぐできるという仕組みなわけです。情報を伝達するときの暗号をどうするか、現在の交戦規定をどうするかなどを、このガイドラインでもって本格的に検討することがこれから始められるということです。それは今度の周辺事態法とは直接関係なく、ガイドラインそのものでやれるという解釈になっているわけであります。そこが大きいところです。
 それから後方地域支援活動のうち、たとえば空母に弾薬や燃料、食料、あるいは武装兵士を運ぶのは自衛隊の仕事になると思います。それから米軍の警備などは陸上自衛隊がやることになると思いますが、それ以外の活動のほとんどは民間が行うことになる。たとえば千歳空港に物資が運ばれてきたというと、千歳から横田に運んだり岩国に運んだりする活動は、たぶん民間の運送会社などに委託することになります。
 民間委託では日本政府が契約するものと、米軍が契約するものと2つあります。ですから、たとえば朝鮮半島で戦争が起きて、ソウルならソウルがいろんな事態になっているというときに、自衛隊の飛行機が飛んでいくことはできないけれど、政府のたとえば航空機チャーター要請を日本の航空会社が請けたら、それで兵隊を運ぶというようなことについても制限や制約というのはあまりないのです。ですから、それは当事者間がOKするということであって、あとは飛行機の離着陸の承諾だとか、飛行空域について限られたルートがあるにしても、直接契約を結べば、それはできるということになるわけなのです。ですから、航空関係や海員関係の組合の人たちが「これは非常に危険だ」と言っているのはその通りなのです。
 周辺事態法にある自治体への協力要請というのが、周辺事態法が廃案になった場合にはできないのかというと、そうではないところが問題なわけでありまして、日米の合同委員会で協議をして決めれば港湾や空港の使用を認めることになるのです。
 この後方地域支援活動というのは、自衛隊の人たちも言っていますが、自衛隊がやらないと出来ないこと、それは空母に輸送するというのは自衛隊がやるわけですけれども、それ以外の国内の輸送、国内におけるいろんな協力は後方地域支援活動のかなりの部分を占めており、そのほとんどが民間や自治体の協力に委ねられています。もし米軍が戦争を行い、日本政府がそれを周辺事態だと認定して協力することになったときには、その活動のかなりの部分が民間協力ということになるわけです。もちろん民間は断れますけれど、そういうときに企業が政府に「お前やれ」と言われたときに断ることができるかどうか、非常に問題なわけです。
 それに、たとえば有事法制のようなものをつくって、協力要請を拒否できないようにすることも想定されるわけでありまして、この周辺事態法の中身というのは、何も自衛隊ばかりではなくて民間や自治体の協力ということも含めて、日本列島全体がいわば後方支援基地になってしまうということだと思います。湾岸戦争時の米軍の兵力は、航空機の出撃回数が1万回、砲弾が4万4千発、燃料補給が10億ガロン、つまり36億リットル、食料9400万食、追走貨物570万トン、アメリカとヨーロッパと中東との輸送が船舶500隻、航空機延べ1万4千機、空輸は48万9千トン、47万3千人といわれていますが、今回のユーゴ空爆では湾岸戦争をはるかに上回る爆撃を行なっています。ですから膨大な燃料や食料などをあそこに集中して輸送しているということでありまして、したがって何が重要かと言えば、朝鮮半島でそういう事態が起こらないように外交努力するということが実は一番大切だということであります。
 いまお話しましたように、このガイドラインそのものがもうすでに国会の何の関与もなしに閣議了解で日米間の了解事項として決められて、それに伴ってこれから日米で一緒にやっていこうということです。
 それから「デフコン体制」といいまして、何か起きたときに自衛隊員に外出禁止令を出す。アメリカの方でも外出禁止令を出して待機させて事態に備える。このデフコンという状態をアメリカと日本で一緒にやろうだとか、その他にもお互いの体制を徐々に共通にしていくということになります。したがって国会でも議論をしましたけれども、本来周辺事態かどうかというのは、@まず周辺事態だという認定があって、Aそれから基本計画を作成し、Bそれに基づいて自衛隊が出動するという枠組みですけれども、私ども民主党はこの3つを全部まとめて国会の承認事項にするべきだと主張してきたわけですが、残念ながらそういうことにはなりませんでした。
 「周辺事態」であるかどうかは、アメリカ政府、日本政府それぞれが主体的に認定すると言っていますけれども、防衛庁長官は「主体的に判断しますが、日米間の判断で齟齬をきたすことはありません」と言い切っているのです。つまり主体的には判断しないということでありまして、アメリカが周辺事態だといって米軍を動かせば、日本政府は自動的にそれに従うと。何か起こりそうだというときから情報交換をして、政策協議をやってきているわけでありますから、周辺事態かどうかいよいよ迫ってきたときに、日本政府はそこから逃れるという道筋はほとんどないと言っていいだろうと思います。
 ところで話は変わりますが、アメリカという国はきちんと戦略を持って外交をやっている国なのです。アメリカの対アジア政策というのは4つの柱がありまして、ひとつは日米間や米韓間の同盟のような2国間条約はしっかり守りますよということ。2つめはアジアフォーラムのような多国間の枠組みも大事にしていくということ。3つめに中国に対してはソ連に対してやったような封じ込め政策は取らないということ。4つめは朝鮮半島についてですけれども、朝鮮半島で戦争を起こさせないようにするというのがアメリカの外交政策の大きな柱になっているのです。これは意外だと思われる方がおられるかもしれませんが、実は韓国には米軍が約4万人いるわけでして、もし戦争になればアメリカ兵がたくさん死ぬ可能性が出てきますから、そんなことは起こさないとしています。
 同時にアメリカの場合は冷戦後、核兵器や化学生物兵器の拡散を阻止することを国防政策の最優先に置いています。核拡散を阻止するというのは2つありまして、核弾頭の開発を阻止するということと、これを飛ばすミサイルの技術の拡散を阻止するということです。核弾頭とそれを運ぶミサイル、核兵器にはこの2つが必要なのです。ですからアメリカは国防上、これを何としても阻止するとしています。実際1994年6月に、カーター大統領が北朝鮮に出向いて金日成と核開発について最終的に話をつけたわけですが、これがなければ、このときアメリカは軍事行動を起こす可能性も多分あっただろうというように思っています。アメリカはそういう外交をやりながら、なおかつそれがうまくいかなかったときにどうするかということもよく考えているところであります。アメリカは弁護士が多くて、契約書というとすごい分厚い契約書になります。ありそうもないような契約破棄に至るまでを全部書いて、そしてそれに対してどうするかということがしっかり書かれています。
 しかし、日本は朝鮮に対する外交努力は何もやっていない。そして何かあったときにどうするかということだけ議論していますから、去年12月から1月にかけて来日したアメリカ政府の高官も「日本は異常だ、戦争熱にうかされている」と強く批判したくらいです。なぜかというと、日本の新聞記者は「アメリカはいつ北朝鮮を攻撃するのですか?どんな状態ならアメリカは攻撃するのですか?」ということしか聞かないからだそうです。まるで戦争熱にうかされているみたいだ、おかしな国だということをアメリカから批判されていますけれども、確かに日本国内での状況を見てみると、今までの朝鮮の行動は、結果としてアメリカのペンタゴンと日本の自衛隊を励ましているというか、元気づけているというところがあるのは間違いないですね。私は中国や朝鮮総連の人にもそういう話をしていますけれども、テポドンの話といい、工作船の話といい、それを口実にして日本の軍事力増強の方に国民的な世論が傾いているわけです。
 問題は何かというと、朝鮮との間にどうやって平和を築いていくかという外交努力が日本にはまだ全くないことです。北朝鮮の政権が崩壊したら何が起こるかわからない、それは絶対困るからその予防をしようというのが中国政府、韓国政府、アメリカ政府の考えなのです。何しろいま食糧支援をしたり、エネルギー支援を一番しているのはアメリカですよね。
 いま北朝鮮では主な農作物をジャガイモに代えています。これは賢明な選択です。今まではトウモロコシでしたが、トウモロコシはもともと南方の作物ですので北朝鮮のような寒い土地では非常に土壌資源を収奪します。ですからジャガイモに代えるのは良いことなのですが、ではその種芋をどう調達するのかというと、アメリカが援助するといったそうなのです。北海道の農業関係者の話によりますと、アメリカで遺伝子操作をしたジャガイモをヨーロッパに持っていったら断られた、そのイモではないかということですけれども、いずれにしてもアメリカはジャガイモを援助して、北朝鮮の農業技術者をアメリカに呼んでイモの作り方を指導しているのです。
 中国も何だかんだ言っても、北朝鮮の政権が崩壊したら、そして統一朝鮮が何らかの形で出来て、鴨緑江や豆満江でもって国境を接するようになったら大変だから、とにかく助けると。韓国も東西ドイツの統一を見て「大変だ、とてもじゃないけどそんな力はない」と。北は北で何とか自立してやっていって欲しいと考えています。統一というのもどちらかといえば、かなり連邦国家的な考え方をベースにして、いわゆる包括的アプローチという政策をとっているわけです。そして南北対談も先頃再開しました。北朝鮮は中国へ大型の代表団を出しました。ペリー特使も北朝鮮へ行ってアメリカの平和外交を説明しました。つまり日本だけが政府としては何も出来ていないわけです。村山(元首相)さんも代表団を送るとか送らないとか言っていますけれども、重要なのは政府が交渉のテーブルにつかなければいけないということです。交渉のテーブルには無条件でついて、そこでミサイル問題や拉致事件など日本の言いたいことを言い、北朝鮮も言いたいことを言い、ではこれらを協議していきましょうと決めればいいわけです。
 アメリカと北朝鮮がジュネーブで合意をいたしました。そこでは、たとえば朝鮮戦争のときに行方不明になったアメリカ兵の遺骨収集を提案し、北朝鮮の同意も得ることが出来ました。またミサイル問題の技術移転についても話し合いが進められています。これはすべて、米朝間に協議の場があるからです。日本は北朝鮮のミサイル開発について「けしからん」と言っていますけれども、日本だって負けないくらいたくさんのミサイルを保有しているのです。ですから、ミサイル問題をどうするかというときに、北朝鮮に「飛ばすのをやめろ、開発はやめろ」とただ言うだけではだめなのです。日本と北朝鮮が無条件で話し合う場を持ち、お互いの軍備規制をどうするかという話として、ミサイル問題をお互い話し合っていけばいいわけです。しかし今はそういう場もセットされていないのです。つまり、日本は紛争が起きないようにどうするかということを全くやらないで、紛争が起きたらどうするかということばかり議論しているのです。そして軍事に特化した形でどんどん進んでいっているというのが今日の状況なわけです。
 私ども民主党は先日、乾パン20万食を北朝鮮に持っていきました。大きい声で言うと右翼が騒ぐからとかであまり宣伝していないのですが、労働組合の皆さんや議員の方からお金を集めて協力してもらいました。実は自治体が持っている非常用の乾パンを持っていきました。非常用乾パンという災害用のものがあるのですが、賞味期限は5年間です。5年間なのですが、自治体は4年半ぐらいでその乾パンを新しい乾パンと替えます。ところがこれは小さな缶に入っていまして、別に5年でなくても、7年でも8年でも保存できます。北朝鮮に持っていった乾パンには、札幌市のものも入っていたかもしれません。全国からのそういう乾パンを外交協会というところが集めているのですが、これを朝鮮総連の方にも見てもらって問題ないことを確かめてもらい、その輸送費を我々が負担するということで、新潟から船で5月21日に10万食、6月1日に10万食持っていきました。党内でも「北朝鮮にそんなことをやる必要はない」という意見もかなり強くありましたが、有志がお金を出し合い、子供たちのためにということで持っていきました。
 いずれにしても北朝鮮が崩壊しないようにしっかり支援していくということが、いま一番大事な仕事なのだろうというように思っています。
 ただ、なかなか難しいですね。ソ連、北朝鮮と、中国、ベトナムを対峙して考えるとよくわかるのですが、経済の専門家が言っていることは、もともと韓国は農業地域で、北朝鮮は工業地域でした。朝鮮戦争が終わって休戦協定がなされたときに、中国とソ連は北朝鮮を応援したわけです。そしてそのあと北朝鮮はどうなったか。軍事産業を中心にして、工業国家としてやっていこうとコメコンの中に入ったのです。コメコンの分業体制の中で、北朝鮮は必要な軽工業品や食糧、エネルギーも含めて、いろんなものを輸入する。そして北朝鮮からは鉄鋼や工業製品を輸出するかたちで、コメコン経済に組み込まれたのです。
 しかしソ連が崩壊した後は大変困ったことになりました。今までは、たとえばチェコは医薬品を作りなさい、ブルガリアは肉を供給しなさい、ハンガリーはトラックを作りなさいと、各国で分担をして、ソ連東欧圏というのは成り立ってきました。しかしソ連崩壊後はその東欧諸国がソ連の束縛から離れたわけですから、ソ連が一番困ったわけです。ソ連国内ではどちらかというと軍事産業を中心にやっていましたので、コメコンシステムが崩壊した途端に東欧諸国から医薬品や生活必需品などが来なくなり、国内は大変混乱しました。もちろんその他のコメコン加盟国も混乱しました。
 一方、中国やベトナムは一国の中で経済を完結させていましたから、エネルギーが開放されるとうまく経済が成り立ったわけです。反対に、コメコン経済の中で分業体制にあった国は、一国だけで一から全部やっていくにはやはり時間がかかったのです。
 中国は今年で改革開放20年ですけれども、今のように毛沢東主義から離れ、社会主義の計画経済から離れてやってきました。イデオロギーの面でも、社会主義市場経済というようなイデオロギーでやってきたわけで、この前も中国に行ったときに、「今やっていることは、たぶん30年前だったら反革命というレッテルを押されただろう」と中国の方が話されていました。その点、北朝鮮はまだ金日成のチュチェ思想からなかなか離れられないでいます。計画経済からも離れられないでいるわけです。そこを自由にしない限り、北朝鮮の改革というのはなかなかうまくいかないのではないかという意見が非常に強くあります。
 しかしいずれにいたしましても、国際的な関係が少しずつ出来てきましたので、時間がかかるにしても、国際社会にソフトランディング出来るように、崩壊しないようにバックアップすることがコストとして一番安いだろうという考えが、韓国にも、アメリカにもあるのです。しかし日本政府は、そのスタンスがはっきりしていなかったのです。「北朝鮮は崩壊した方がいい」と思っていた人もたくさんいるようで、たとえば外務省幹部の中には、「崩壊して統一韓国ができれば賠償金を払わないで済む」というバカなことを言っていた高官もいるくらいでありますから、つまり基本的なスタンスがはっきりしていなかったから、対北朝鮮の外交政策が出来ずに今日まで来たわけであります。
 もちろん、北朝鮮もアメリカ、韓国その他の軍事力の強さはわかっています。アメリカはこの前の湾岸戦争で新しい兵器の実験をし、今回のNATOによるユーゴ空爆でも何か新しい兵器を使っていると思われます。今のアメリカの軍事技術からいいますと、ペンタゴンからでも戦争指揮ができるというくらい、敵である相手のすべてを知り、相手方の兵器が届かない所から攻撃するための情報システムがもう完全に出来上がっていると言われています。
 皆さんの中で『エネミー・オブ・アメリカ』という映画を観た方はおられますか。札幌の映画館ではもう終わっているかもしれませんが、まだやっていたらぜひ観て下さい。これは盗聴法を理解する上で、あるいは今の情報社会とはどんな状況にあるのかということを知る上で非常に勉強になる娯楽映画でございますけれども、恐ろしい内容の話でございます。
 この映画の中では、アメリカ国家安全保障会議(NSA)の人間がやった殺人事件の証拠を持つ人間を追いつめていくのですが、たとえば預金をカードで引き出そうと思ったら、カードが使えなくなっていた、つまりこれは国家が操作して使えなくしているのです。
 こういうことは映画だけの話かと思っていましたら、ニューズウィークの先週号に、ユーゴスラビアに対してクリントン大統領がCIAに命令した2つの事項というのがありました。それは何かというと、ひとつは破壊工作で、CIAがコソボ解放戦線を訓練するということ。もうひとつは、ユーゴのミロシェビッチ大統領の外国預金を全部引き出すということです。その記事によりますと、誰かがその銀行に口座を開設し、その銀行のセキュリティーの弱点を調べ、そしてハッカーを忍び込ませて預金を全部引き出すということです。これを大統領が指示したと記事に載っているのです。映画でやるような話をまさかアメリカの大統領がやるとは思いませんでしたけれども、それくらい今の情報システムというのがアメリカの一極支配といわれるような体制の中でどんどん進んでいってしまっているということです。これに対して日本が、本当に日本の立場でモノが言えるようになっていかなければなりませんし、それは安全保障ばかりではなく、政治や経済などすべてにおいてですけれども、ともかくアメリカの一元支配というような世界の状況を変えていくことがやはり大事だろうというように思っています。
 だいたい1時間くらい話をして、あとは質問ということでございましたので、この辺で話を終えまして、あとは質問をいただきたいと思います。どうもありがとうございました。