【新春対談】 医師 中村 哲 × 衆議院議員 横路 孝弘

アフガン復興で支援の表明を
―求められる現状把握と充分な調査―

よこみち孝弘ネットワーク通信No.34 4〜5ページ


中村 哲(なかむら・てつ)

 1946年福岡市生まれ
 九州大学医学部卒業。
 国内の診療所勤務を経て、1984年パキスタン北西辺境州の州都ペシャワールに赴任、らい(ハンセン)病を中心としたアフガン難民の診療に携わり現在に至る。


アルカイダとタリバン

横路孝弘
 先ほど、給油、給水をやめるだけで日本のアフガニスタンの国民に対する非常に大きな貢献になるというお話されました。給油をやめると反テロ、国際戦線から離脱するのか、というようなことをマスコミなどに言われて、結構みんなそんな感じでいるわけです。
 しかし、今日の先生の話でアルカイダは別にしまして、アフガンの土着の人々の中にそんなテロリストがいるわけじゃないというお話もされました。

中村哲
 テロの実行犯を見てわかるように、テロの温床というのは本当はアメリカ、西欧諸国の病理の部分なんですね。あれが温床なので、とても土にまみれて生活している人々が、アフガニスタンを越えて何かするということは、まず考えられない。

横 路 日本ではアルカイダもタリバンもみんな一緒に見てしまっていますが、タリバンというのは、先生言われるようにアフガンの土着の人々ですよね。割と保守的な地域で生活している、農民であるという話がありました。タリバンというのは、組織化されているのでしょうか。日本政府に、タリバンというのはどういうグループなんですかと聞くと、自分はタリバンだと名乗っているのがタリバンだというのが日本政府の見解なんです。

中 村 それが正しいんです。というのは、アフガン人ならだれでもタリバン的な要素を持っている。だから、カルザイ大統領を含め、多かれ少なかれアフガン人ならすべてタリバン的な反近代的な要素を持っているということなんですね。
 その中でやや過激な主張をして、武器を持つ人をタリバンと呼んでいるわけで、いわゆる組織的に大きな軍事集団があるというのとはちょっと違うんですね。



進行する大干ばつと食糧支援の実態

横 路
 アフガンのことは日本に報道されませんが、結婚式にミサイルを撃ち込んだ話が何年か前にありまして、報道されました。しかし、相当多くの市民が亡くなっていると思いますが、いかがですか。ドイツの記者の報告では、一般市民含めて昨年だけで五〇〇〇人超えている死傷者がいるんだという話がありましたが……。

中 村
 国際赤十字も同じ数字です。恐らく犠牲者は万単位ではなかったでしょうか、年間でです。

横 路 この一、二年で急増しているんです。

中 村 アフガンでは二〇〇〇年から大凶作が進行している。どうせ死ぬなら差し違えてというか、そういうようなぶっそうなムードがあります。首都のカブールなどは普段は人口百万人なんですが、いまは五百万人位の人がいて、ちょうどロシア革命、フランス革命前夜のような状態なのですが、そういう状態もほとんど伝わって来ない。

横 路 ユーラシアで大干ばつが進行中で、一二〇〇万人が被害を受け、五〇〇万人が飢餓線上にあると言われています。日本で今すぐに貢献できることは何でしょうか。

中 村 人々が生きて暮らしていくためには農業生産が大事で、食糧自給率の上昇が緊急の課題です。そして、今何が大事なのかを十分調査して、民生支援を中心にやるということを宣言し、何か具体案を出すとよい。まずは、何をすべきかではなく、何をしてはいけないかと強力に主張するだけで非常に国際的なインパクトがあると思います。求められる貢献はたくさんあります。わけても農業復興が緊急の課題です。

横 路
 先生が井戸を掘られたり、用水路を造られたりして、非常に大きな貢献をされているわけなんですけれども、さらにその上に日本からソバとかサツマイモとか持って行かれて、実験農場を作られているようにペシャワール会報に出ていますが、これは成果は上がってきているんですか。

中 村 ぼちぼちですが、サツマイモやソバ、そして意外なことに日本の日本米、九州の朝日竜を持って来たら、日本の収量に比べて三割多い。地元の人にとっては、難民が戻されてきて人口が増えてきていますので、食糧増産が必要なのです。うまくいけば食糧増産に貢献できるのではないでしょうか。
 とにかく、一番大切なのは食えるようにということです。

横 路 そうですね。それが一番のスタートですよね。やっぱりパンと水とおっしゃいましたけど、その通りだと思います。





脅迫観念としての国際協力

横 路 ISAF(多国籍軍部隊)のことをお尋ねします。カナダは今までPKOを中心にやってきたのが、多分NATOの関係で参加していると思うんですが、しかも南部の方にいっておられて、結構六〇人か七〇人が戦死しています。ほとんど戦闘行動が中心になっているんですか。

中 村 そうですね。民生支援ということでしたが、実際見てみると、軍服を着た、迷彩服を着た人がワクチン接種を行っている。地域の人々は、協力しにくいですね。

横 路 ISAFは軍服を着て活動しているんですね。

中 村 そうです。ちょうどアイルランドがアフリカでやったように、まったく丸腰でやれば違うんです。やっぱりISAFという名前からしても軍ですから、無理に民生活動をやるというのは、受け入れられがたいものがあると思います。だから日本政府独自にやればいいんですよ。どうやって守るのかというのも、それは場所によってはそんな警護の必要のないところが多いから、まずは、十分な調査じゃないでしょうか。
 それを僕はやった方がいいと思います。今まで欧米のNATO軍なりISAFがやって失敗した例なんかを学んだ上で、数年単位でプランを練り上げてつくっていく。
 それを着実に実施する調査機関を設けてやる。ほんとうに日本人というのは、せっかちですね。

横 路 給油について対案が必要だとマスコミも自民党も主張するのですが、給油を止めるだけで十分だと思います。国民のために何をやるかが問われているのですね。

中 村 だから、私たちは基本原則としてこれをやります。そのために具体的な調査を実施します。それには時間がかかるかもしれませんけども、長いこと復興プロセスに関わります、この宣言一つだと思いますね。また、真実を知ってもらうために、メディアの人の協力も必要になってくるわけですね。



大事なのは復興支援の表明

横 路 そうするとメディアはアフガンに入っているんですか。この間見たら日本テレビの映像がずっと入っていましたが。

中 村 実は日本電波ニュースというのがアフガン政権の時代から入っていて、干ばつの模様なんかもずっと記録してきました。NHKをはじめ大きなテレビ局は自分のスタッフを入れたがらない。それで死傷者が出ると、会社が非難を受ける。
 結局、フリーのジャーナリストの情報に頼ることになりますが、でもフリーのジャーナリストがいい映像を取るかというと、そうでもなくて、どうしても売れるような、センセーショナルなものになります。気骨のあるジャーナリストがいま少ない。

横 路 今回先生がお帰りになって、いくつかのテレビで短い時間でしたが、出てお話されているのを見ました。テレビでは珍しいんじゃないですか。先生がテレビに出て、お話されるのが一番説得力あると思うんですけどね。

中 村 私も対人恐怖であんなところに出るのはちょっと苦手なんですけど、今度ばかりは私のことをタリバンの報道官などと言われたり、あんまり偏見が強いものですから、ここは一つ事実を伝えようと思ったわけです。
 私はタリバンが天下とろうと、誰が天下を取ろうと、一時的な内戦は避けられないと思います。確認したいのは、タリバンのイメージと実体は違うということ。首都はもう包囲されていること。タリバンを交渉相手として認知すべきこと。このあたりも日本人に理解してほしい。改めて訴えてもいいんじゃないかと思います。

横 路 本当に今のアフガニスタンは、大変な状況なのですね。私たちも現実を把握し、テロ特措法の国会審議をしていかなければなりませんね。

中 村 現地で、アルカイダがいるという情報があると、初めはヘリコプターで攻撃する。そのヘリコプターが撃墜されるので、最近はジェット機で空爆する。そのたびに市民の犠牲が出るわけです。毎日、数十人単位の村人が死んでいますが、このことは伝わっていません。わずか数名の反政府武装勢力を倒すために、多くの犠牲が必要なのでしょうか。このことは誇張ではなく、日常化していることです。
 タリバン掃討の実態は八〜九割の犠牲の上に成り立っています。カルザイ政権自身、アフガン人の命が軽視されていると訴え、タリバンと取引しています。例えば、ヘラートという町ではタリバンが実効支配しているのですが、中央派遣されている州知事がアフガン人自身殺し合うのは止めようと、休戦協定を結んだわけです。ところが、そこをジェット機が攻撃して、たくさんの人が殺されました。このことは、現実のこととして、ぜひ知っておいて下さい。 

横 路 わかりました。今日はどうもありがとうございました。

中 村 ありがとうございました。



この対談は2007年10月24日に行ったものです。

 講演の内容と対談の全ては、「横路孝弘 講演・対談集No.10」に詳しく掲載しております。ご希望の方はこちらへ