「派遣ありき」で強行採決した連立政権

自衛隊原則を踏みにじり、「アメリカ追従が日本の国益」と考える小泉首相

 

 皆さんこんにちは、横路孝弘です。
 戦後58年間積み重ねてきた日本の外交や安全保障の基本政策が大きく変えられようとしています。小泉内閣はイラクに対するブッシュ大統領の戦争に自衛隊を派遣することとなりました。本当に残念であります。

 まず今のイラクはどんな状態かというと、やはり戦争が続いている状態だと思います。アメリカ・イギリス軍がバグダッドに侵入して占領軍政府をつくりました。いまイラクはアメリカ・イギリス占領の統治下に置かれているのです。
 その占領に対する抵抗がずっと続いています。そして2月2日の朝刊にも、クルド人の人々に対する攻撃があって50人以上が亡くなったという報道が出ていますように、毎日毎日あちこちで占領に対するイラクの抵抗が続いているわけです。それは自爆テロ、あるいはゲリラなどですが、時にはミサイルや砲弾を使った戦闘も行われているわけですし、アメリカ・イギリス軍はそういう抵抗に対して掃討作戦と称して攻撃しているわけですから、とても平和な状態とは言えません。
 いわば戦争状態が継続している中に自衛隊を派遣するのです。そこを私たちはしっかりと見なくてはいけないと思います。

 日本の自衛隊はいわば「専守防衛」です。自衛権を行使する3要件というのがありまして、それは@日本の国土が直接攻撃されて、Aそれに対して他に手段のないときに、B必要最小限度反撃する軍事力、その軍事力が自衛隊であり、その時に行使されるのが自衛権であると言われています。そういう自衛隊の原則がありますから、海外へ日本の自衛隊を出すことはしない、ただ国際的な協力で、例えば紛争の停戦を監視するとか、選挙の監視活動をするということを国連が決めたときには協力していこうということで、PKO活動は参加5原則のもとにあるわけです。
 今回はそれらと全く違います。つまり今回のブッシュ大統領のイラクに対する戦争、アフガニスタンに対する戦争に日本の自衛隊が協力したのは戦後初めてのことなんです。アフガニスタンではアメリカが行っている戦争に後方支援という形で協力しました。今回のイラクに対しては、占領下で抵抗が続いている、そんな中でその占領政策に協力をする、いわば占領軍に協力する形なのです。
 ブッシュ大統領は今年秋に大統領選挙がありますが、アメリカ国民の批判もだんだん強くなっています。イラク占領はコストもかかるしリスクも大きい。コストとリスクをどうやって下げるか、それは他の同盟軍に肩代わりしてもらうことがいいわけですね。だから日本政府はアメリカ以外で一番、あの戦争に参加しているイギリスよりもはるかに大きい金額、当面1550億円、4年間で5000億円を超えるお金をアメリカに協力しようとしています。もちろん国民の皆さん一人一人が納めた税金の中から出すわけです。
 そしてリスクも軽減するためにアメリカ兵を引き上げ、その穴埋めを他の国にやってもらおうというのが今の状況です。それに協力するのが小泉政権なのです。
 イラクでは抵抗が続いておりミサイルや砲弾による攻撃があるかもしれないから、自衛隊は無反動砲や携帯用の対戦車弾といったようなものを持っていくのです。攻撃されて、それに対して撃ち返すという状態はどういうことでしょうか。お互いに武器を持って戦うわけですから「交戦状態」になるわけで、憲法が禁止していることを行うことになるのです。
 ただ単に人道支援に行くわけではありません。アメリカ・イギリスの占領軍に協力するために行くわけで、そのことを私どもは決して見失ってはならないと思います。

 同時に二つ目の問題は、今回のブッシュ大統領の戦争は、イラクが核兵器、生物兵器、化学兵器など大量破壊兵器を持っている恐れがあるから今のうちに叩くんだという話でした。
 しかし去年の6月以来、CIAが中心になって1400人という非常に大規模な調査団を編成して調査にあたりましたが、調査団長が先日アメリカの上院軍事委員会で「戦争が始まったときにはイラクには生物兵器も化学兵器もなかった、核兵器もなかった」ということを証言されました。
 この証言は、1991年から98年まで7年間にわたってイラクで査察したスコット・リッターさんという国連査察官の発言と全く符合するのです。スコット・リッターさんはこういう発言をしていました。「核に関する様々な設計図だとか資材というものは100%廃棄した。生物兵器、化学兵器についていうと90〜95%廃棄した。残りの5〜10%についてイラク政府は廃棄したと言っているが、廃棄したことを証明する文書がない。だから疑いは残る。しかし生物兵器については3年間、化学兵器についてはだいたい5年間で無害化するから、1998年以後に再生産されていない限り生物兵器、化学兵器の問題はないと思う。しかしその5〜10%を確認することが必要です」。
 そこでその5〜10%について一昨年から昨年の3月までの間、つまりアメリカとイギリスが武力行使するまでの間、再び国連査察団が編成されて査察にあたっていたのです。しかしそれでも発見できなかった。当時の国連査察団委員長が国連の安保理事会で「もうあと2〜3ヶ月時間がほしい。そうすれば査察は終える」と言っていたにもかかわらず、アメリカ・イギリス軍は大量破壊兵器を理由にして戦争を起こしたのです。そして日本政府はこれを支持しました。1441という国連決議があったけれどもそれは具体的に武力行使を授権したものではありませんでした。
 その後、新しく武力行使を授権する決議をアメリカ、イギリス、スペインで出した。その決議案を何とか通すために、アメリカは非常任理事国に対してものすごい説得をしました。しかしみんな査察を継続しようということになって、アメリカはこの決議案を取り下げて、そして戦争に入ったわけです。
 だから日本政府は今回のイラク戦争に支持しただけだというわけにはいかないんです。その結果戦争が行われて、1万数千人のイラクの人々が死んで、あちこちが破壊されたのです。その破壊したところ、つまりアメリカ軍が破壊したところを復興しようというわけで、そのために税金を使い、自衛隊を派遣しようというわけなのです。皆さん、こんな話があっていいのでしょうか。
 やはり私どもは今回の大義なきイラク戦争を認めてはいけないし、そのこと抜きにして復興支援を語ることはできないというように思っています。

 もうひとつ今回の問題は、小泉さんは「日米同盟」「国際協力」の2本立てだと言っていますが、先日の国会で「国連は役に立たない、やはり日米同盟なんだ」という話をされました。小泉さんは日本の国益はアメリカに従うことだと思っておられるわけですね。つまりアメリカの言うことを聞くことが日本の国益なんだという考えです。
 いわゆるネオコンと言われている一人であるリチャード・パーン元国防次官補は「日本は保安官(アメリカ)の助手たれ」ということを言っています。つまりアメリカは世界のあちこちに軍隊を派遣している「世界の警察官」だと、その警察官の助手としてアメリカの活動するところで手伝ってほしいという意味なんです。
 それからアーミテージ国務副長官は「日米同盟はいまやアメリカとイギリスの同盟と同じようになった。共に世界戦略を語り、同時に行動を共にするということだ」と言いました。
 アメリカはグローバルな展開をしています。圧倒的な武力をもって、第2次大戦が終わってから58年間ほとんど毎年どこかの国で武力を行使している、あるいはCIAがクーデターを支援するというような活動をやってきた国なのです。
 ですからそのことに協力するということは、日本が「ここは非戦闘地域だから」「ここは後方支援活動で」ということで世界中でアメリカ軍に協力するということになりかねないのです。
 戦後の日本の外交は国連を中心にしてやってきました。その国連の機能を強化することは大事だと思いますけれども、「国連は役に立たないから日米同盟だ」というのは戦後日本の外交の基本を変えるものだと思っています。

 そして今回、イラク支援の国会決議案がイラク支援特別委員会で出されました。私もそこの委員ですが、国会の議論を通じて明らかになったことは本当に驚くべきことです。
 自衛隊の本隊を派遣する前に治安状況が安全かどうかを確認するために先遣隊が行きましたが、1日半で戻ってきて「安全です」という報告をしました。それが政府が本隊を派遣するということを決める前提になったわけです。
 ところが外務省と防衛庁との文書のやり取りが国会で明らかにされました。それを見ると、「安全である」という報告書が先遣隊を派遣する前にすでに出来上がっていたんですね。しかも政府は国会で例えば「派遣先のサマワの周辺地域では事件らしい事件はほとんどない」と言いながら、その文書の中には、30〜40人のゲリラによってアメリカ軍が攻撃を受けたというような大きな事件が6件、小さな襲撃事件が50数件あったことなどが記述されているのです。つまりウソの報告に基づいて自衛隊の本隊派遣が決定されたわけです。
 また報告書には、サマワ市評議会が住民の治安維持にも大変大きな役割を果たしていると書かれていたのですが、実際にはその評議会はCPA(米英暫定占領当局)の新しい考え方、つまり間接選挙で代議員を選び、議会をつくっていこうという考えに反対して解散していたということなどがはっきりしているわけでして、そういう意味でいいますと全くの偽りの報告に基づいて決定された、しかもその報告書は現地に行って調査する以前に作られたものだったということです。
 それではなぜウソの報告書を作って報告したのか、なぜそんなに急いで強行採決をしたのか。やはり「派遣ありき」だったのですね。
 小泉さんは2月1日に旭川で行われる隊旗授与式に出席することになっていましたから、そのスケジュールにあわせて派遣を決めたということで、これも本当に残念なことであります。

 私ども民主党は、アメリカ・イギリス占領軍のもとでは今の複雑なイラクの状況を解決して新しいイラク国民の主権国家をつくることはなかなか難しいと思っています。したがって、国連が中心になって早くイラク国民国家をつくる努力をしなければいけない、その時に日本政府は大きな協力をすればいいと考えております。
 なぜ難しいかというと、例えばいま自衛隊が派遣されようとしているサマワはシーア派の地域なんですね。宗教はイラクにはシーア派とスンニ派があります。民族的にはクルド人とアラブ人がいます。つまり民族も違う、宗教も違う人たちが一緒になっているのです。どうしてかというと、イラクという国はイギリスが勝手に線を引いて作った国で、途中でまた線を引いてクウェートという国を作ったのです。そういう歴史があるのです。
 人口の約60%を占めているシーア派の人々は直接選挙を要求しています。多数派ですから新しい政権で主導権を取れるだろうということなんですね。しかしアメリカは反対しています。なぜかというとシーア派は隣のイランの宗教なので、イランと非常に連携がある。一方アメリカはイランと敵対している。というのは、イランはホメイニ革命が起きる前は国王のもとにあった国で、アメリカとイギリスの石油資本は保護されていました。しかしイスラム原理主義を掲げるホメイニさんが革命を起こして米英企業を追い出し、石油資源はイラン人のものになりました。
 ここでアメリカはカーッとなりまして、イランと対立していた隣のイラクのフセイン大統領を支持して、イラクはアメリカの支援のもと1980年代にイラン・イラク戦争を起こしたのです。
 ですからシーア派が主権を取るということはイランとの連携が強まるということですから、アメリカとしてはそれを望んでいません。
 一方でイラク北部に住むクルド人は人口の約23%のウエイトを占めています。クルド人は湾岸戦争のあと、自治が認められて自治区のもとでこの12年間活動してきました。12年間、学校ではアラビア語ではなくクルド語を教えてきましたから、言葉も通じ合えないようになっている。言葉も文化も違う民族なんですね。クルド人はアメリカ、イギリスの戦争を支持しましたから、今の自治権の拡大、場合によっては独立を要求しています。
 ところがこのクルド人は隣のイランやシリアやトルコなどにもいるんですね。だからもしクルド人が独立国家をつくるということになると、イランのクルド人もシリアのクルド人もトルコのクルド人もそこに参加しますから、イランやシリアやトルコはもちろん反対しています。そんなことになったら中東の波乱は周辺にまで及んでいくのです。
 スンニ派はフセイン大統領を支持してきたフセイン大統領出身の宗教グループです。このスンニ派の人たちは今まで行政、警察、軍などの中心の仕事を担ってきました。この人たちを除いて国をつくるというわけにもいかないんですね。しかしスンニ派が国家作りに参加することをシーア派など他の人たちは非常に強く反発していますから、シーア派とスンニ派とクルド人の3つをまとめて国家をつくるということはとても今のアメリカ占領軍では難しい。ましてや占領軍に対してみんな抵抗している中ではとてもできることではないのです。

 小泉さんは、ともかくアメリカ・ブッシュさんに従うことが日本の国益だと考えて、58年間積み重ねてきた自衛隊の原則を踏みにじってあえて派遣しました。本当に残念なことだと思います。
 もちろん、命令されて行った自衛隊の人々には罪はありませんから、行かれた自衛隊の人たちが一人もケガをしたり亡くなったりすることなく、またイラクの人を一人も傷つけたり殺したりすることなく帰ってきてほしいというように私どもも願っております。
 それにしても、こういう派遣を決めた今の連立政権は本当にけしからんと思います。
 これから参議院でいろんな議論が続いていくわけでございますが、私どもは「もう派遣したんだから仕方がない」と言わないで、しっかりと見つめてまいりましょう。


   2004年2月2日
横  路  孝  弘