有事法制に関する法律案要綱の問題点
2002年4月16日
4月19日加筆修正


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1.有事とは何か
 戦時である。自衛隊法は有事立法である。自衛隊法では日本の国土が攻撃されたとき自衛権が発動され、自衛隊が防衛出動する。
 自衛隊は国土防衛の組織であり、その限りにおいて憲法上認められる。
 有事とは何かについて、今回の法律案では武力攻撃と武力攻撃事態が考えられている。
 武力攻撃― 我が国国土に対する外国からの攻撃、テロ、不審船は除かれる。
 武力攻撃事態― 「事態が緊迫し、武力攻撃が予想されるに至った事態」とされ、直接的な武力攻撃にとどまらず、「恐れのある」「予想される」事態を盛り込んでおり主観的な判断が入り込む余地がある。
 特に「予測の事態」は「我が国をとりまく国際情勢の緊張の高まりなどから我が国への武力攻撃の意図が推測され我が国への武力攻撃が発生する可能性が高いと客観的に判断される事態」とされており、少しも客観的ではない。


2.有事立法とは
 軍事的危機が発生、もしくは発生の恐れがある場合に軍事組織に全面的な行動の自由を与えるために国民の基本的人権に制約を加えるもの。


3.周辺事態は日本の有事ではない
周辺事態は6類型あると政府は答弁しており、それは朝鮮半島と台湾海峡における事態である。
@
わが国周辺の地域において武力紛争の発生が差し迫っている場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
A
我が国周辺の地域において武力紛争が発生している場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
B
我が国周辺の地域における武力紛争そのものは一応停止したが、未だ秩序の回復・維持が達成されておらず、引き続きその事態が我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
C
ある国において「内乱」、「内戦」等の事態が発生し、それが純然たる国内問題にとどまらず国際的に拡大している場合であって、我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
D
ある国における政治体制の混乱等により、その国において大量の避難民が発生し我が国への流入の可能性が高まっている場合であって、それが我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
E
ある国の行動が、国連安保理によって平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為と決定され、その国の国連安保理決議に基づく経済制裁の対象となるような場合であって、それが我が国の平和と安全に重要な影響を与える場合。
これらはいずれも日本有事ではなく、米軍が米軍の判断で行動した場合に日本が協力をするという事態。
・ 判断はあくまで米国
・ ブッシュ政権の「悪の枢軸国」の下で、北朝鮮はどう扱われるのか
・ ブッシュ政権の戦争への日本の協力
 新ガイドラインの下では、日本有事には日米の共同作戦計画に基づいて対処し、周辺事態には相互協力計画を作成することになっている。
 同時にこの両者の整合性をとることが大切で、一貫性を持たせなくてはならないとされている。つまり周辺事態が日本有事に波及する場合と周辺事態と日本有事が同時に発生する場合での共同対応が強調されている。
 日本有事は単独では起こらない。アメリカの戦争に日本が参加する形のみおこりうる。在日米軍が悪の枢軸と呼ぶ諸国に先制攻撃をかけた場合に、日本の領域への散発的なミサイル攻撃など想定し得る事態が考えられる。


4.テロ、不審船はこの法律の対象ではないが、どうするのか不明
    (その他の緊急事態対処のための措置となっている)
 本来テロ、不審船は有事ではない。警察力での対応(海では海上保安庁)が原則。警察力で対応できない時にはじめて自衛隊が出て行くことになる。もちろん、国家の意思として行われたテロは、状況によっては軍事侵略と認定することも可能。


5.緊急事態への対処措置、対処法制の整備について
  【法律案】
@ 第2条の「定義」の六の対処措置として
  ・ 警報の発令、避難の指示など
  ・ 国民の生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置
 を実施する。
A 第22条の「事態対処法制の整備」において
  ・ 警報の発令、避難の指示などに関する措置
  ・ 保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置
  ・ 輸送及び通信に関する措置
  ・ 国民の生活の安定に関する措置
 を適切かつ効果的に実施されるようにするもの。
B 第3条の「武力攻撃事態への対処に関する基本理念」の4で
 武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重され、これに制限が加えられる場合においては、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ公正、かつ適正な手続きの下に行われなければならないこと。
C 第21条の「事態対処法制の整備に関する基本方針」の5で
 政府は事態対処法制の整備に当たっては、武力攻撃事態への対処において国民の協力が得られるよう必要な措置を講ずるものとすること


6.対処法制の問題点について
@ 警報の発令、避難の指示について
 戦前は防空法の下で隣組の組織化が行われた。地域の中に民間防空の組織が作られ(隣組、警防団、特別防護団などが参加)燈火管制、偽装、消防、避難、救援活動が行われた。
 もし警報を発令して避難することになれば、どこが避難場所なのか、シェルター(防空壕)をどこに作るのか、避難道路の指定をどうするかなど、全国的にその体制を平時に作ることになる。
 しかも日本有事(日本の国土への攻撃)が上陸侵攻の形をとるにせよ、ミサイル攻撃を想定するにせよ、どの程度の現実性があるのか、どの地域が攻撃対象地域(避難地域)であると特定できるのかなど問題があまりにも多い。社会の軍事化が進むことになる。
A 国民生活の安定、国民生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置
 戦前は日常的に軍需品などの実態調査を行い、戦時補給の計画を進め、戦時においては政府が直ちに管理、使用、収用、徴用できるように準備がなされていた。
 また、価格等統制令や食糧管理法によって配給や価格の統制を行ってきた。現在の日本の市場社会の中で価格をどのように決めて配給はどうするのか、実行するとすれば生産、流通、消費の全てに政府の介入、統制、コントロールが行われ、経済の軍事化といった状況が生れることになる。配給はどんな生活品を対象に行うのか、また配給の手帳でも作るのか。
B 保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置
 社会秩序の維持とは幅が広い、治安維持法に拡大される恐れがある。


7.表現の自由を含む基本的人権について、どんな人権をどう制約できるのか不明。
  精神的自由は制約されない。戦争反対の集会も、出版も、デモも許されるべき。


8.国民の協力が得られる措置
 医療関係者、輸送関係者(航空機、船舶、鉄道、自動車)、土木作業員などへの徴用。そのためには普段からどこに誰がいるのか、名簿を作成して管理することになる。
 民間防衛組織の設立(在郷軍人会、青年団、婦人会、町内会など)


9.地方自治体と国との関係
 地方公共団体は、国の方針に基づく措置を実施、その他適切な役割を担うことを基本とする。
 そして、対策本部長(内閣総理大臣)の権限として対処措置に対する総合調整、特に必要な場合に措置の実施を指示(指示権)、指示に従わない場合の直接実施、あるいは代執行ができる。
 問題点― 自治体に対しては代執行してはいけない。(法律で規定すれば可能か)
 国と地方自治体は対等な関係。しかし総理大臣の指示権があるが内容は不明。
 日本の国のかたちが大幅に変更される。行政の軍事化になる


10.三矢作戦別紙1及び戦前の国家動員体制との関連
国家総動員体制(1938年)
 国家総動員法は「国の余力を最も有効に発揮するよう人的、物的資源を統制運用すること」を目的。
      ↓
 法律ではなく天皇の命令である勅令により、各種の統制を命令する権限を政府に与える、包括的な委任立法として制定、公布された。
 この事は、議会や政党などの諸制度を事実上の窒息状態に追い込むものであった。行政権力の肥大化と議会の有名無実化をもたらした。
国民精神総動員体制
      ↓
・部落会、町内会(配給、供出、回収、生産、勤労奉仕、防空などの予防)
  1940年9月  120万の隣組
           1万9000の町内会
  防空法(1937年)の制定と家庭防火隣組組織要綱
 この法律によって内務省に防災総本部が置かれ、また各都道府県に防災本部が置かれた。そして各軍管区司令官が作成した防空計画の基準を地方長官(知事)に提示し、地方長官が計画化を行った。
 警報は警戒警報と空襲警報があり、軍司令官などが警報を発し、解除し、ラジオやサイレンで国民には知らされた。
 民間防空組織が地域に作られ、隣組、警防団、特別防護団などが参加し、警察や軍の指導を受けた。
・地方行政連絡会(1940年)
      ↓
   地方協議会 → 地方総監府
・軍需工業動員法(1918年)
平時に毎年定期的に工場、事業場、輸送機関、軍事品、労働者などの実態調査。
戦時に管理、使用、収用、徴用。
対象は食料、衣服、軍事物資など。
戦時体制化の進行は経済や産業に対する政府の統制が強化され、市場原理は極力排除される
  −価格統制と消費者の消費行動を規制する生活統制が行われていった。
輸出品等に関する臨時措置に関する法律(1937年)
価格等統制令(1939年)
  −各種商品価格取締法、暴利取締法に代わるものとして制定された
電力管理法(1938年)
石炭配給統制法(1940年)
小作料統制法(1939年)
食糧管理法(1942年)
・国民徴用令
 国家総動員業務を完遂するために人的資源の確保が急場となり、まず労働者の職業能力を事前に調査、把握しておくことが必要になった。
国民職業能力申告令(1939年)― 16〜50歳の男子の登録
医師関係者職業能力申告令(1938年)― 医師、歯科医師、薬剤師、看護婦の把握
国民労働手帳法(1941年)― 土木建築、道路、製造業、船舶、通信
                   (16〜60歳手帳を持つこと)
国民徴用令(1939年)― 国民を戦争遂行に不可欠な重要産業部門に強制的に従事させる労働動員政策の一環(船舶徴用令、医療関係者徴用令)

そして義勇兵役法(1945年6月23日)に至る

・生活、医療などの統制
 国民の日常生活を軍事的要請から管理、統制する体系
地代家賃統制令(1939〜1940年)
国民服令(ワイシャツやチョッキの着用禁止)
砂糖配給統制規則
マッチ統制規則


11.「備えあれば憂いなし」ではなくて「備えつくって憂いあり」
  社会の軍事化、経済の軍事化、行政の軍事化が進む。
  こうした事態は平時の戦時下といえよう。
  とても賛成できない
  憲法上の問題点も大きい
     憲法9条、11条、18条、19条、21条、22条、92条



(別紙1)
三矢研究の有事立法リスト
防衛庁統合幕僚会議 三矢研究(1963年2月〜6月実施)


1.国家総動員対策の確立
  (1) 戦力の増強達成
    1. 人的動員
      ・一般労務の徴用
      ・防衛物資生産工場におけるストライキ制限
      ・国民世論の善導
    2. 物的動員
      ・防衛産業の育成強化
      ・交通・通信の強制的統制
      ・防衛物資配分の統制
  (2) 国民生活の確保
      ・国民生活衣食住の統制
      ・非常時民事・刑事特別法
      ・国家公安の維持
      ・非常事態に対し政府に対する権限委譲

2.政府機関の臨戦化
  (1) 中央
      ・内閣総理大臣の権限強化
      ・最高防衛指導機構の確立
      ・国家総動員法施策実施のための機構整備
  (2) 地方
      ・自衛隊の行動に適応する地方行政機構の整備
      ・非常事態様相に応ずる地方別独立性の付与

3.自衛隊行動基礎の達成
  (1) 官民による国内防衛態勢の確立
    1. 民防
      ・重要施設、機関都市等へ空襲騒擾に対する防衛組織
      ・郷土防衛隊の設置(非常時国民戦闘組織)
    2. 民事
      ・自衛隊の行なう作戦警備の直接補助組織
      ・自衛隊行動に対する後方援助業務
      ・戒厳
  (2) 自衛隊の行動を容易ならしめるための施策
    1. 出動下令前
      ・国家非常事態宣言
      ・出動下令前武力行使基準
      ・敵性船舶に対する処置準則
    2. 出動下令
      ・防衛出動待機命令
      ・防衛出動命令
    3. 隊員補充
      ・防衛招集
      ・強制服役
    4. 防衛資材施設の補給管理
      ・非常時物資収用法(徴発)
      ・隊法103条の政令
      ・総理大臣に公用負担をかけ得る権限付与
      ・自衛隊施設の活用を容易ならしめる(各法規適用除外)
      ・土地収用(非常時に際し)
    5. 防衛司法
      ・防衛司法制度の確立(自衛隊の裁判)
      ・特別刑罰の設定
      ・裁判機構内に防衛庁専門の法廷設置
    6. 防衛保護
      ・国防秘密の保護
      ・軍事秘密の保護
      ・特別情報庁の設置(捕虜情報その他)
    11. 気象業務等
      ・気象官署の統制
      ・国土地理院(建設省)の統制

4.自衛隊内部の施策
      ・連合防衛行動体制
      ・統合防衛行動体制
      ・中央機構の改善
      ・栄典制度の確立

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